手術等の侵襲的処置を受ける患者にとって、術後の敗血症に起因する臓器障害は予後に大きな影響を及ぼすとされており、これらの予防は周術期管理学上の重要な課題とされている。本研究は、転写レベルでの予防(治療)法を開発することを目的に、主に食品機能性成分により、数多くの抗酸化タンパク質や抗炎症因子を誘導することが知られている転写因子Nrf2を誘導し、内在性の抗酸化および抗炎症システムを同時に活性化させることによりリポポリサッカライド(LPS)により惹起される急性肺傷害を予防することが可能かどうかを検討する研究である。 最終年度は、前刺激として低濃度LPSをC57BL/6マウスに投与し、5日後に本刺激として致死量のLPSを投与した場合、その7日後のマウスの生存率は100%であった。これに対し、低濃度LPSを投与しなかったマウス(コントロール)では生存率は20%であった。LPS前刺激による生存率改善の機序を調べるためNrf2レポーターマウスであるOKD-Lucマウスを用いてNrf2活性化能を検討した。前刺激およびコントロールマウスとも本刺激時にはルシフェラーゼの発光が見られなかったが、本刺激20時間後に前刺激マウスにおいて著明な全身発光が見られた。この結果より、LPS前刺激は本刺激後のNrf2活性化を亢進させることにより生存率を改善することが示唆された。低濃度LPSのかわりに前刺激としてポリフェノールであるケルセチンを用いた場合、生存率はごくわずかに上昇した。 今後はNrf2活性化を介してさらに生存率を改善できるポリフェノールなどの機能性成分を探索することが必要と考えられた。
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