非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝硬変へ移行する病態として注目されているが、生活習慣病の増加に伴い、本邦でも患者数が増加(およそ100万人と推定)している。また、NASHでは肝虚血傷害が正常肝より強くなることが報告されている。揮発性麻酔薬は肝虚血保護作用を有するが、NASHにおける検討はない。糖尿病薬のチアゾリン薬やインクレチンはNASHの進展予防だけでなく、直接的な肝虚血保護作用も報告されてきている。NASHに対する揮発性麻酔薬と糖尿病治療薬の相互作用を検討しより有効な肝虚血保護効果方法を確立させることを目的とし、正常肝ラットとNASHラットの肝虚血再灌流モデルを用い、揮発性麻酔薬と糖尿病治療薬の相互作用を検討し、より有効な肝虚血保護法を確立させること、ならびにこの保護メカニズムについても検討した。 正常ラットでは、揮発性麻酔薬セボフルラン(SEVO)虚血前の短時間ならびに長時間投与またはチアゾリン薬ピオグリタゾン(PIO)、インクレチンのリラグルチド(LIRA)の3日間投与ならびに1回投与によって肝細胞傷害の軽減とアポトーシスの抑制が認められ、生存率も高かった。NASHラットではコントロール群の比較で肝虚血再灌流傷害が正常ラットよりも強く生存率も低下した。SEVO虚血前の長時間投与とPIO、LIRAの3日間投与でのみ肝細胞傷害の軽減とアポトーシスの抑制が認められた。正常ラットにおいては、保護作用における相互作用を認めなかった。NASHラットでは、PIO 3日間投与群+SEVO短時間群が、単独群と比較して肝細胞障害の低下を認めた。保護効果メカニズムには、再灌流6時間後の肝組織をホスファチジルイノシトール3キナーゼ、内皮型一酸化窒素合成酵素、ヘムオキシゲナーゼ-1の関与が示唆された。現在、肝切除術、肝移植術における臨床研究について検討を行っている。
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