本研究はタンパク合成を調節する機能を持つmTORの機能変化が痛覚過敏の発現に果たす役割を解析することを目的としている。我々は、mTORが一次知覚神経に発現すること、その発現量は術後痛モデルにおいて増加することを明らかにしている。また、mTOR阻害薬ラパマイシンの投与により術後痛モデルにおける痛覚過敏が減弱すること、足底部分へのインスリン様成長因子IGFの投与が一次知覚神経のmTOR発現を増加させること、IGF阻害剤PPPが術後痛モデルにおけるmTOR発現を抑制することを明らかにした。さらに、mTORの下流に存在する遺伝子としてVGLUT2が一次知覚神経で誘導されることも明らかにしてきた。今年度はVGLUT2発現の調節因子がIGF以外に存在しないか確認するため神経栄養因子NGFを足底に投与したラットにおけるVGLUT2の発現を解析し、NGF投与ではVGLUT2の発現増加はみられないことを明らかにした。また、VGLUT2の機能を抑制するため、阻害剤としてローズベンガルを足底投与し行動解析を行った。しかしながら、ローズベンガルは足底組織に対して炎症反応を惹起させることが明らかとなり、痛覚閾値の正しい評価は不可能であった。
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