研究課題/領域番号 |
23592314
|
研究機関 | 関西医療大学 |
研究代表者 |
樫葉 均 関西医療大学, 保健医療学部, 教授 (10185754)
|
キーワード | 脊髄後角ニューロン / パッチクランプ法 / ラット |
研究概要 |
近年になってこの侵害情報を抑制する内因性疼痛抑制機構という仕組みが脚光を浴びている。痛みの信号が痛みの信号を減弱させるというのである。最も代表的な仕組みの一つは、脳幹から脊髄後角に至る下行性抑制ニューロンの存在である。このシステムの下行性抑制ニューロンは5-HT系とNA系の二つに大別する事ができる。5-HT作動性ニューロンは、延髄腹側の網様体に位置する大縫線核(nucleus raphe magnus:NRM)等より脊髄後角の表層へ投射している。このニューロン群を駆動させているのは中脳中心灰白質に局在するGlu作動性ニューロンといわれている。通常、これらのニューロンは近傍に存在するGABA作動性ニューロンにより興奮が抑制されている。一方、NA作動性ニューロンは青斑核(locus coeruleus:LC)およびその近傍から同じく脊髄後角表層へ投射し、侵害情報を修飾する事が知られている。しかしながら、これらの詳細な神経メカニズムについては明らかにされていない。我々は、近年その技術開発がめざましいパッチクランプ法を用い、脊髄の新鮮スライス標本からホールセル記録を行なっており、記録したニューロンを免疫組織化学法よりそれらの神経伝達物質を同定し、同時に単一ニューロンの形態も観察している。これまでの研究より申請者らは、脊髄後角、特にその深層において侵害性の情報処理が殊のほか大きく取り扱われていること、また下行性疼痛抑制系の入力も受けていることなどを明らかにしてきた。この下行性の入力は、必ずしも抑制性だけではなく、上位中枢への投射ニューロンを興奮性に導いている可能性も見出している。これらの結果をさらに発展させて、この領域における局所神経回路の解析と末梢神経障害に伴う神経因性疼痛の調節機構を明らかにしたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、この研究領域において大きな成果が得られなかった原因の一つは、脊髄後角がそもそも未知の領域であり、どのような性格のニューロンが存在するのか、後角ニューロンはどのように分類されるのか、それらのネットワークはどのような回路なのか、等の基本的な問題が明らかにされてこなかった事があげられる。末梢からの痛覚の情報は、脊髄後角の表層に入力し、主に後角のI層とV層に位置する投射ニューロンが、それらの情報を視床に伝える。後角には、これらの興奮性ニューロンに加えγアミノ酪酸(GABA)やグリシンを含有する抑制性の介在ニューロンが存在し、痛覚の情報伝達に何らかの修飾を加えている。が、その詳細については明らかにされていない。これまで我々は、GABA/グリシン作動性ニューロンの多くがエンケファリンを含んでいることを手掛かりに、エンケファリンの膜電位応答を解析した結果、サブスタンスP(SP:侵害受容ニューロンに含まれる興奮性神経ペプチド)の入力を受ける深層ニューロンが、GABA/グリシン作動性ニューロンの入力を受けること、深層ニューロンもまた、脳幹からの下行性抑制系の入力を受けることなどが明らかになってきた。このように後角深層では、非侵害性の情報だけでなく侵害性の情報もまた大きく取り扱われていることが分かった。これまでの研究から徐々にではあるが脊髄後角の局所神経回路のイメージが見えてきたところである。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、パッチクランプ法を主軸として、単一ニューロンの標識とその形態学的解析を組み合わせながら、脊髄後角の局所神経回路の解析やその可塑性について検討するものである。これまでは、パッチクランプ法を中心に解析を進めている。ブラインドパッチクランプ法は、シールテストによる電極抵抗を手がかりに電極を神経細胞に接着させる方法で、新鮮スライスの表層から深層までのニューロンを標的にすることができる特徴を有する。このため、成体における神経回路の解析に最も有効な方法の一つであると考えられいる。我々は既に、この方法によりラット新鮮脊髄スライスの後角深層領域において神経細胞をホールセル記録し、解析を進めている。これまでの研究から、脊髄後角の深層ニューロンは触圧覚や深部感覚などの非侵害性の情報のみならず、侵害受容ニューロンからの侵害情報もまた大きく取り扱われていること、深層ニューロンの多くもまた、脳幹からの下行性抑制系の入力を受けていることなどを明らかにしてきた。今回の研究計画では、脊髄後角深層における局所神経回路、および後角ニューロンの下行性抑制系の入力に対する作用について、ブラインドパッチクランプ法に加え、、免疫組織化学法、in situ ハイブリダイゼーション法を採用し、これまでの成果をさらに発展させる方策である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ブラインドパッチクランプ法 ラットの新鮮脊髄スライス標本を作製し、ブラインドパッチクランプ法により後角深層ニューロンから膜電流を記録している。一次求心性侵害受容ニューロンの多くに含まれるサブスタンスPや下行性抑制ニューロンに含まれるノルアドレナリンやセロトニンの受容体アゴニストの膜電流応答を観察している。ノルアドレナリンやセロトニンの受容体は多くのサブタイプに分類することができ、その多くはGタンパク結合型受容体であり、イオンチャネル型受容体は5-HT3受容体のみで、このアゴニストに応答する後角ニューロンは非常に少ない。このような実験を遂行するためには、実験動物(ラット)、パッチクランプ用ガラス電極、様々な受容体作動薬、手術器具類、O2-CO2混合ガス等の消耗品が必要となる。 単一ニューロンの標識と免疫組織化学法/in situ ハイブリダイゼーション法 パッチクランプ法による記録が終了すると、記録しているニューロンの細胞内にパッチ電極からバイオサイチンを拡散させる。その後、パッチ電極を細胞からはずして、新鮮スライス標本をパラホルムアルデヒド固定液の浸漬し免疫組織化学法やin situ ハイブリダイゼーション法に供する。パッチクランプ法で様々な受容体アゴニスト等の作用を確認することは出来るが、記録しているそのもののニューロンが興奮性なのか抑制性なのかが分からない。そこで、記録したニューロンをバイオサイチンで標識し、免疫組織化学法/in situ ハイブリダイゼーション法を用い興奮性のグルタミン作動性ニューロンか、あるいは抑制性のGABA/Gly作動性ニューロンかを検索する。このような形態学的手法を遂行するためには、各種抗体やプローブ類、ガラス器具類、等の消耗品が必要となる。
|