研究課題/領域番号 |
23592319
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
川田 徹 独立行政法人国立循環器病研究センター, 循環動態制御部, 室長 (30243752)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 / 薬理学 / 生理学 / 制御工学 / システム生理学 / メデトミジン / 迷走神経 / 動脈圧反射 |
研究概要 |
塩酸デクスメデトミジンは中枢性のα2アドレナリン受容体刺激薬で、呼吸抑制が少ないなどの利点から、集中治療における鎮静薬として利用されるが、これまでに知られている中枢性のα2刺激作用だけでは説明できない重篤な徐脈や洞停止を来たす場合がある。そのような副作用の予防や、副作用発生時の適切な対応には、病態の正確な理解が不可欠である。そこで、本研究では自律神経活動や血行動態を直接的に記録できる動物実験を用いて、デクスメデトミジンまたはラセミ体であるメデトミジンが自律神経による心循環調節に与える影響を、中枢作用と末梢作用に分けて定量的に解析することにより、副作用の予防や対策に役立てることを目的とする。これまでα2アドレナリン受容体の刺激で、中枢性に交感神経活動が抑制されることは知られていたが、中枢性に迷走神経活動をどう修飾するかは知られていなかった。そこで、麻酔下のウサギおよびラットを用いて、メデトミジンの静脈内投与が心筋間質アセチルコリン濃度に及ぼす影響を心臓微量透析法を用いて検討した。また、動脈圧受容器反射との相互作用を明らかにするために、昇圧薬で血圧を維持した状態で、メデトミジンの作用がどのように変化するかを検討した。その結果、ウサギにおいてもラットにおいても、メデトミジンの静脈投与で心拍数は減少し、心筋間質アセチルコリン濃度が上昇した。さらに、昇圧薬で血圧を維持することによって、心筋間質アセチルコリン濃度の上昇が増強した。以上のことから、α2アドレナリン受容体の刺激で、中枢性に迷走神経活動が亢進することが明らかとなった。さらに動脈圧受容器からの入力が大きいときに、メデトミジンの作用が増強されることが明らかとなった。これらの研究成果の一部は英文誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、メデトミジン投与による迷走神経の賦活化と動脈圧受容器反射との相互作用を麻酔下のウサギおよびラットにおいて明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果からα2アドレナリン受容体の刺激で動脈圧受容器反射依存性に迷走神経活動が亢進することが明らかとなった。今後は動脈圧受容器への入力レベルを詳細に制御することによって、α2アドレナリン受容体刺激と動脈圧受容器反射の相互作用をさらに定量的に評価すること、ラット高血圧モデルを用いて、この経路の病態における変化を検討することを計画している。具体的には麻酔下ラットの頚動脈洞圧受容器を体循環系から分離し、サーボポンプを使って頚動脈洞内圧を階段状に変化させ、交感神経活動および体血圧の応答を記録する。動脈圧反射の中枢特性を圧入力と交感神経活動との間の入出力関係から定量化し、末梢特性を交感神経活動と体血圧との間の入出力関係から定量化する。これまでの研究から、中枢特性は概ねシグモイド曲線で近似できること、末梢特性は直線で近似できることが分かっている。さらに迷走神経活動を定量化するために、心臓微量透析法を用いて、各圧入力レベルにおける心筋間質アセチルコリン濃度を測定する。以上の実験方法を用いて、塩酸デクスメデトミジンまたはメデトミジンを静脈内投与する前後で動脈圧反射の中枢特性と末梢特性がどのように変化するかを調べる。また、自然発症高血圧ラット(SHR)を用いて同様の実験を行うことで、SHRにおけるα2アドレナリン受容体刺激による中枢性の迷走神経賦活化機構の変化を検討する。これとは別に、α2アドレナリン受容体刺激による中枢性の迷走神経賦活化において、心臓以外の迷走神経遠心路がどのように変化するかを明らかにするために、麻酔下のウサギを用いて腹部臓器の壁から微量透析を行い、間質アセチルコリン濃度の変化を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記実験を実施するための動物(ウサギおよびラット)購入、消耗品購入と、研究成果発表のための国内・海外旅費を使用する計画である。消耗品は薬品(デクスメデトミジン、麻酔薬等)、保温マット、神経活動記録電極、神経固定用シリコン、血圧測定カテーテル、記録用紙、小型手術器具等である。
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