研究課題/領域番号 |
23592319
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
川田 徹 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (30243752)
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キーワード | 循環器・高血圧 / 薬理学 / 生理学 / メデトミジン / 迷走神経 / システム生理学 |
研究概要 |
塩酸デクスメデトミジンは中枢性のα2アドレナリン受容体刺激薬で、呼吸抑制が少ないなどの利点から、集中治療における鎮静薬として利用されるが、これまでに知られている中枢性のα2刺激作用だけでは説明できない重篤な徐脈や洞停止を来たす場合がある。そのような副作用の予防や、副作用発生時の適切な対応には、病態の正確な理解が不可欠である。そこで、本研究では自律神経活動や血行動態を直接的に記録できる動物実験を用いて、デクスメデトミジンまたはラセミ体であるメデトミジンが自律神経による心循環調節に与える影響をシステム生理学的手法を用いて定量的に解析することにより、副作用の予防や対策に役立てることを目的とする。 本年度はメデトミジンによる中枢性の迷走神経活性化作用を自然発症高血圧ラットにて検討した。ラット左心室に心臓微量透析用のファイバーを植え込んで、心筋間質アセチルコリン濃度の変化を調べたところ、自然発症高血圧ラットでは正常血圧対照ラットに比べて、メデトミジンによる迷走神経活性化が抑制されていることが判明した。一方、頚部迷走神経の直接刺激によるアセチルコリンの放出には差がなかった。したがって、自然発症高血圧ラットの病態には、従来報告されている交感神経系の亢進だけでなく、中枢性の迷走神経系の活性化の不良が関与していることが示唆された。 また、ウサギの心室壁と胃壁の両方に微量透析用のファイバーを植え込んで、メデトミジン投与に対する組織間質アセチルコリン濃度の変化を調べた。その結果、メデトミジンの静脈投与により心臓においてはアセチルコリンが上昇するものの、胃においては逆に減少することが判明した。胃における迷走神経の亢進は催潰瘍的にはたらくが、メデトミジンによる迷走神経活性化ではそのような副作用が少ないことが予測された。 これらの研究成果の一部は英文誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の結果を病態モデルに発展させるとともに、微量透析法を新しく胃壁に応用することにより、メデトミジン投与による迷走神経活性化を心臓と胃壁で個別に定量することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、α2アドレナリン受容体の刺激で中枢性に迷走神経活動が活性化すること、この活性化が自然発症高血圧ラットでは障害されていることが判明した。このような迷走神経活性化の異常の原因を探るために、動脈圧反射による交感神経活動の調節を抑制することが知られている交感神経求心路が、メデトミジン投与による迷走神経活性化に及ぼす影響を調べる。麻酔下ラットにおいて星状神経節を剖出し、その遠心路を切断する。そして、星状神経節から交感神経求心路を電気刺激した状態でメデトミジンの投与を行い、心筋間質におけるアセチルコリン濃度の変化を調べる。また、ウサギにおいてはメデトミジン投与において交感神経活動の著名な抑制が起こり血圧の低下がみられたことから、このような低血圧作用を示さずに迷走神経を活性化できる別のクラスのα2アドレナリン受容体作動薬について探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記実験を実施するための動物購入、消耗品購入と、研究成果発表のための国内・海外旅費を使用する計画である。消耗品は薬品(デクスメデトミジン、麻酔薬等)、保温マット、神経活動記録電極、神経固定用シリコン、血圧測定カテーテル、記録用紙、小型手術器具等である。その他の費用として論文の英文校閲および別刷り代を予定している。なお、論文2編の投稿と受理が平成25年度にずれこんだため(いずれも平成25年5月に受理)平成24年度末において別刷り代等の予算が残金となったが、これは直ちに使用予定である。
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