これまでの検討の中で、アノイキス抵抗性を獲得するためにはepithelial-mesenchymal transition (EMT)という現象が重要な役割を果たしていることが考えられた。この現象を制御する因子の一つに、TWISTという転写因子があるが、様々な癌腫において、血管新生や基底膜の破壊を介して、腫瘍増大、浸潤、転移を促進することが報告された。我々はこれまでに腎癌の悪性度に関与する因子としてMMP-2やTunor-associated macrophage (TAM)の存在を報告している。そこで腎癌におけるTWISTの発現と、MMP-2やTAMとの関連性について検討を行った。 方法:当施設でのIRBおける承認のもと、腎癌組織を入手・保存し、これらの組織検体を用いて、免疫組織化学染色を行った(TWIST、MMP-2、血管新生:CD-31、細胞増殖:ki-67、TAM:CD-68)。またアポトーシスに関してはTUNEL法を行った。これらの染色結果や臨床病理学的因子の関連性を統計学的に評価した。 結果:まず腎癌組織におけるTWISTの発現は、pT stage(癌の深達度)や転移と関連性を認めた。また、肉腫様変化を含む核異型度の高さとも関連していた。次に、免疫染色の結果から、TWISTが高発現している組織ではTAMおよびMMP-2の発現が亢進し、細胞増殖、血管新生が促進していたが、アポトーシスとは関連性を認めなかった。これらの関連性を多変量解析にて評価したところ、TWISTの発現はTAMおよびMMP-2と独立して関連していることがわかった。さらに生存分析を行ったところ、TWIST陽性であった患者は陰性であった患者より予後が悪かった。 これまでの検討により、TWISTが腎癌の進行、増悪、転移などに重要な役割を果たすことを示した(学会発表予定、論文投稿中)。しかし、癌の進行部での発現がより強いことや、他のネットワークを介して癌の進行が制御される可能性など、TWISTの役割に関してはさらなる検討が必要と思われる。
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