研究課題
本研究の目的は癌精巣抗原(cancer/testis antigens(CTAs))の発現パターンを解析することにより、精巣腫瘍の予後および化学療法の感受性が予測可能であるかを検討することである。ホルマリン固定、パラフィン包埋組織切片より抽出するRNAのqualityが悪く、multiplex real-time quantitative polymerase chain reaction (multiplex qPCR) 法に適したサンプルが得られないことが、昨年度までの大きな問題点であった。本年度も引き続き種々のRNA抽出kitを用いて、プロコール中の様々なstep(温度や時間など)に対して種々の条件を検討したが、multiplex qPCRを施行可能なqualityを有するRNAを抽出することができなかった。一方で、凍結組織が利用可能な癌の一つである腎癌で癌精巣抗原の発現を検討したところ、sperm associated antigen 4 (SPAG4)が正常組織と比較し、癌組織で著名に発現が上昇していることを見出した。SPAG4の発現は低酸素下で誘導される転写因子の一つであるhypoxia inducible factor 1a (HIF1a)およびHIF2aにより制御されており、HIF1の発現を誘導する薬剤として知られているdesferrioxamine mesylate (DFO) 処理により、SPAG4の発現は上昇した。さらに、SPAG4の発現レベルは腫瘍の悪性度と負の相関を示し、SPAG4の発現が低いグループでは、腫瘍の再発率が優位に上昇していた。以上の結果より、癌精巣抗原の一つであるSPAG4が腎癌において有望なバイオマーカーとなることが示された。今後、精巣腫瘍においても、発現およびその予後との相関について検討を加える予定である。