研究課題/領域番号 |
23592349
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
菊地 栄次 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10286552)
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研究分担者 |
大家 基嗣 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00213885)
宮嶋 哲 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90245572)
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60445244)
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キーワード | 尿路上皮癌 / 抗癌剤 / シグナル伝達 / 喫煙 |
研究概要 |
本年度も転写因子であるNF-kappaBと、PI3K-AKTシグナル伝達経路に着目し、尿路上皮癌におけるそれらの関連、並びにその制御による治療効果検証を目的とし研究を進めた。 尿路上皮癌におけるNF-kappaB、PI3K-AKT経路活性の臨床的意義の解明、並びに尿路上皮癌モデルにおけるPI3K-AKT経路阻害の抗腫瘍効果の検証に対する研究結果として尿路上皮癌の皮下腫瘍モデルにおいて、PI3K-AKTシグナル伝達経路を強力に抑制する新規分子標的薬NVP-BEZ235の投与により抗腫瘍効果を認めた。In vitroの実験系においてはNVP-BEZ235投与により有意にPI3K-AKTシグナル伝達経路の抑制が確認された。NF-kappaBの選択的阻害薬であるDHMEQと抗癌剤パクリタキセルの併用との併用治療で有意な細胞障害増強効果を認めた。NF-kappaB及びPI3K-AKT経路は、尿路上皮癌における治療標的として有望であることが示唆された。 喫煙による転写活性、PI3K-AKT経路亢進機序解明と関連因子の網羅解析として、まず尿路上皮癌細胞にニコチン受容体が存在することを確認した。そこで短期間のニコチン暴露試験を行ったが、AKT活性化の上昇が確認された。 抗癌剤耐性制御におけるPI3K-AKT経路亢進機序解明の結果としては尿路上皮癌に対する最も効果の高い抗癌剤であるcisplatinに対して耐性を獲得した細胞を樹立(cisplatin耐性尿路上皮癌細胞株)、その細胞におけるPI3K-AKT経路分子の発現亢進が認められた。cisplatin耐性株はcisplatin以外の抗癌剤耐性を獲得する傾向にあり、他の抗癌剤暴露によりAKTの活性化が認められた。また、耐性株において、NF-kappaBの活性も大きく上昇している結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写因子であるNF-kappaBと、PI3K-AKTシグナル伝達経路に着目し、尿路上皮癌におけるそれらの関連、並びにその制御による治療効果検証を行ったが、尿路上皮癌にNF-kappaB、PI3K-AKT経路活性が強く関連していることが確認された。特にin vivo研究においてPI3K-AKTシグナル伝達経路を強力に抑制する新規分子標的薬NVP-BEZ235の投与により有意にPI3K-AKTシグナル伝達経路の抑制が起こり、抗腫瘍効果を認めたことは、今後の研究につながるものと思われる。 また喫煙による転写活性、PI3K-AKT経路亢進機序解明の研究として尿路上皮癌細胞にニコチン受容体が存在することを確認した上で、短期間のニコチン暴露によりAKT活性化の上昇が確認されたことは喫煙とPI3K-AKT経路亢進が強く関連することを示唆するものと考える。これらの研究成果は次年度の喫煙マウスにおけるin vivoでのPI3K-AKT経路亢進の有無の確認、さらにはPI3K-AKTの活性阻害剤を使用し、その治療効果の確認を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までの成果より喫煙により血中のニコチン濃度が上昇するとともに、尿路上皮癌の悪性化し、進展する可能性が示唆された。今後はニコチン長期間暴露細胞を継代しその細胞における転写活性変化、PI3K-AKT経路亢進の有無を検討する方向である。また喫煙マウスにおいてin vivoでPI3K-AKT経路亢進の有無の確認、さらにはPI3K-AKTの活性阻害剤を使用し、その治療効果の有無を確認する予定である。今後耐性株に対しても上記NVP-BEZ235やDHMEQをin vitro、in vivoで使用し検討を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
PI3K-AKT経路関連蛋白の発現を確認するため、各種抗体の購入に研究費を使用する予定である。 in vitroの研究に関しての費用は主にプラスチック器具(フラスコ、ピペット、96穴プレートなど)、培養細胞試薬、Western blot試薬など消耗品の購入に充てられる。 ニコチンを直接投与し作成する直接喫煙モデル、あるいはタバコ煙中でマウスを飼育する受動喫煙モデルの動物実験とその飼育費用にも研究費が充てられる。
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