研究課題/領域番号 |
23592352
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 悟 日本大学, 医学部, 教授 (50197141)
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研究分担者 |
山口 健哉 日本大学, 医学部, 准教授 (00297813)
浦野 友彦 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (20334386)
咲間 隆裕 日本大学, 医学部, 助教 (90570739)
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キーワード | 遺伝子 / 癌 / 発現制御 |
研究概要 |
前立腺癌特異的融合遺伝子のエンハンサー領域に存在する、アンドロゲン受容体結合部位配列に着目し、アンドロゲン受容体を介した融合遺伝子の転写調節機構の解明を本研究の主な目的としている。平成24年度はACSL3のアンドロゲン受容体結合領域内に存在する転写調節因子の機能解析を行った。 1. 前年度報告したETS familyと融合遺伝子を形成するアンドロゲン応答遺伝子ACSL3の転写開始点上流に見出したアンドロゲン受容体結合領域内に存在する転写調節因子結合配列を欠失させるとアンドロゲンによる応答性が減弱することを応用し、同結合配列に特異的に結合でき、その機能を抑制させる薬剤の開発を計画した。そこで、生体内で高い安定性を有し、配列特異的な設計および、生成が容易な、ピロール・イミダゾールポリアミド( PIポリアミド)に着目し、本年度は構造式の設計を行った。設計したPIポリアミドを次年度生成し、前立腺癌細胞に与える影響を検討することにより、アンドロゲンの応答機構の詳細な検討を行うことができることと、新規創薬に応用することが期待できる。 2. 新規に見出した、アンドロゲン応答遺伝子(Androgen response gene 1: ARG1)の機能解析を行った。AR陽性前立腺癌細胞株LNCaPを用い、アンドロゲン刺激下で検討した。ARG1の発現をRT-qPCRにて評価したところ、アンドロゲン投与群で有意に発現が増加していた。ARG1は公共のデータベースで、正常組織に比べ、前立腺癌組織で発現が増加しており、ARG1が前立腺癌の発生、進行に影響をを与えていることが示唆された。今後、同遺伝子の機能解析を行う事で、前立腺癌の新たな進展機序解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではETS familyと融合する遺伝子の前立腺癌増殖に対する作用と臨床前立腺癌における発現様式を解析することを目的とし、コンピューター配列解析、ならびにChIP法を用いて、同遺伝子のエンハンサー領域に存在する特異的アンドロゲン応答配列を同定することにより、前立腺癌増殖に重要な役割を果たしているAR転写協調因子を新たに同定することを目標としていた。これに対し、平成24年度は前年度で同定したACSL3の転写開始点上流に存在するアンドロゲン受容体結合領域に存在するアンドロゲン応答性に影響を与えている転写調節因子結合配列を抑制させることに着目した。同領域を抑制させることにより、エンハンサー機能の検討、およびACSL3遺伝子の前立腺癌に与える影響を検討することができる。様々な薬剤を考慮したが、ピロール・イミダゾールポリアミドを用いる事とした。ピロール・イミダゾールポリアミドは生体内で高い安定性と特殊なデリバリーシステムを要しないことから、次世代の薬剤として期待されている化合物である。 また、ChIP-chip法で、同定した新規アンドロゲン応答遺伝子群のうち、ARG1が前立腺癌組織で発現が増強していることを公共データベースで確認した。本年度着目した、PIポリアミドによる前立腺癌のアンドロゲン応答性への影響を検討することと、ARG1のより詳細な前立腺癌における機能解析を次年度に行うことができることから、平成24年度の研究成果はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果を発展させ、ACSL3遺伝子の機能解析、前立腺癌創薬への応用を考慮し、今後の研究の推進方策 として、ACSL3遺伝子が与える前立腺癌細胞への影響の機能解析を、前年度で設計した転写調節因子の結合配列をターゲットとしたピロール・イミダゾールポリアミドを用いて行う。具体的にはヒト前立腺癌細胞株を用いて、上記薬剤を投与し、細胞の機能解析を行う。ピロール・イミダゾールポリアミドはdH2Oで溶解されており、細胞への投与は培養液に設定した濃度になるよう添加することで行う。まず、同薬剤の投与により、ACSL3遺伝子の発現抑制の有無を検討することにより、平成23年度に見出したアンドロゲン応答領域のエンハンサーとしての機能を解析することができる。さらに、ACSL3発現抑制を認めた場合、LNCaP細胞の増殖能および遊走能に与える影響を検討することにより、ACSL3遺伝子が前立腺癌に与える影響を解析する。研究実績の概要で示した新規アンドロゲン応答遺伝子ARG1が前立腺癌に与える影響を前立腺癌細胞を用いて増殖能、遊走能を含めた機能解析を行うことにより、前立腺癌の新たな進展機序解明を目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
ACSL3転写開始点上流に位置するアンドロゲン受容体結合領域をターゲットとしたPIポリアミドをLNCaPに投与させることにより、ACSL3の発現変化を解析する。続いて、細胞遊走能試験と、増殖能試験を行う。増殖能に影響を与えている可能性が示唆されれば、ヌードマウスを用いてin vivoにおける影響を検討する。次に、ChIP-chip法で同定されたARG1が前立腺癌に与える影響を検討するため、前立腺癌検体を用いた解析、LNCaP細胞増殖能、遊走能の機能解析を行う。上記実行を遂行するための消耗品や、ヌードマウス購入費として主に使用する予定である。
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