研究課題/領域番号 |
23592394
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 知行 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (40209010)
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研究分担者 |
川名 敬 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60311627)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オメガ3脂肪酸 / オメガ6脂肪酸 / 早産 / 炎症 / マクロファージ / 動物実験 |
研究概要 |
今年度は、妊娠の生理と病理におけるオメガ3/オメガ6脂肪酸系による免疫調節の解析の研究のうち、早産の病態におけるオメガ3/オメガ6脂肪酸系の意義の検討を、動物実験モデルを使って実施した。妊娠マウスの子宮頸部にLypopolysaccharide(LPS)を注射することにより、早産を誘発した。オメガ6脂肪酸からオメガ3脂肪酸を体内で合成できるオメガ3過剰トランスジェニックマウス(FAT1マウス)とそのワイルドマウスに、オメガ6脂肪酸を大量に含む餌を食べさせて実験した。その結果、FAT1マウスでは、ワイルドマウスに比べ、有意に早産率が低いことがわかった。興味深いことに、ワイルドマウスにオメガ6脂肪酸を大量には含まない通常の餌を食べさせると、早産しないこともわかった。以上より、オメガ3/オメガ6バランスがオメガ6に傾くと早産が誘発され、オメガ3に傾くと早産が抑制されることがわかった。これらのマウスの妊娠局所の組織学的変化を検討したところ、子宮体部筋層へのマクロファージの浸潤数には差が認められなかった。そこでマクロファージの質的検討を行った。マクロファージには炎症を誘発するM1マクロファージと炎症を抑制するM2マクロファージとがあり、このバランスで炎症がコントロールされていると考えられる。子宮筋層に浸潤するマクロファージを調べたところ、M1マクロファージの数が、FAT1マウスで有意にワイルドマウスより少ないことがわかった。また、LPS注射に伴う子宮筋層内の炎症性サイトカインinterleukin-6産生がFAT1マウスで有意に抑制されていることがわかった。以上より、オメガ3脂肪酸が過剰な状態では炎症が抑制され、早産率が低下することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、妊娠における免疫介入脂質メディエーターの生理的・病理的意義に関する研究である。本研究は、脂質メディエーターとして、オメガ3/オメガ6脂肪酸系とlysophosphatidic acid(LPA)/オートタキシン(ATX)系を取り上げている。今年度はこれらの研究のうち、特にオメガ3/オメガ6脂肪酸系の研究で早産における脂質メディエーターの意義を解明し、実績をあげることができた。本研究は、さらにその作用機序の解明をめざして進行中であり、次年度も継続する。一方、LPA/ATXの研究については、今年度は実験方法の確立、および臨床検体の収集に力が注がれた。具体的な成果はまだあがっていないが、臨床検体数も増加し、実験方法も安定してきたことから、次年度は、順調に成果が挙げられると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に成果が挙げられた早産におけるオメガ3/オメガ6脂肪酸系の意義については、次年度はさらにメタボローム解析を実施し、オメガ3/オメガ6脂肪酸の代謝物の検討も行う予定である。また、LPA/ATXの研究については、具体的な研究成果を目指し、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などの異常妊娠と正常妊娠とにおけるATXの発現状況の違いや、トロホブラストを用いた培養実験により、LPAのトロホブラスト増殖、浸潤に及ぼす影響とそのメカニズムについて研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度研究費のうち次年度使用額は1193円である。ほぼ今年度配分額を使い切っており、端数金額として次年度使用となったものである。本繰り越し研究費は、直接経費として次年度配分予定の研究費と合わせ、上述の研究の物品費として使用する。
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