研究概要 |
妊娠高血圧症候群の病因として胎盤形成不全と、それによって胎盤からの母体血流への分泌される血管申請抑制因子の関連が知られている。今回の研究では、①血管新生抑制因子であるsFlt1が胎盤で産生される機序の解明 ②血管新生抑制因子であるsFlt1および血管新生因子であるPlacental Growth Factor (PlGF), およびVascular growth factor (VEGF)の血中濃度を用いた妊娠高血圧症候群発症予知の試み について行った。 ①絨毛初代培養および絨毛細胞セルラインを用い、sFlt1の発現を制御する因子の検索を行った。そのなかでトロンビンがsFlt1の発現を容量依存性、時間依存性に上昇させ、また PlGF, VEGFの発現を減少させることを明らかにした。またこの刺激はPAR1を介している事を明らかにした。このことから、これまで知られていた低酸素や炎症の刺激だけでなく出血や血栓にも胎盤でのsFlt1の形成が促進され、妊娠高血圧症候群の病態形成の一因となり得ることが示唆された。特に妊娠初期の血栓形成のコントロールが本性の発症の予防となる可能性も示唆された。 ②当科の妊婦健診に通う妊婦から妊娠12-15週、20-23週、28-29週に採血をし、血清を保存した。その後妊娠経過、分娩経過を追跡し、妊娠高血圧症候群を発症した妊婦とこの対象群につき、保存血清中のsFlt1, PlGF, VEGFを測定し、本症の発症前にこれらの血清中因子の濃度が変化しているかについて検討した。1392検体の解析の結果、sFlt1/PlGFratioのカットオフ値を27とすると、4週間以内の妊娠高血圧症群発症の予測がROCでAUC0.94で感度80%特意度100%陽性的中率75%陰性的中率100%となった。この結果より、この因子の測定が妊娠高血圧症候群の予知に有用であることが示された。
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