研究課題/領域番号 |
23592398
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
平田 修司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (00228785)
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研究分担者 |
深澤 宏子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (60362068)
正田 朋子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (50345716)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 未熟卵 / 成熟培養 / 体細胞核移植 / ntES 細胞 / 再生医療 |
研究概要 |
体細胞核移植胚 (体細胞クローン胚) 由来の胚性幹細胞 (nuclear transfer-derived embryonic stem cell; ntES 細胞) は、患者自身の体細胞から樹立する ES 細胞であり、それを用いた移植医療の開発が期待されている。しかしながら、臨床応用目的でのヒト ntES 細胞の樹立には、1. 多数の未受精卵の準備を可能とするシステムの確立、2. 体細胞核移植胚の発生率を劇的な改善、3. 倫理的問題ならびに社会的問題の解決、などが必要である。 本研究は、このうち 1. と 2. を目指して、(1) 未熟卵子の体外成熟 (IVM) による未受精卵子の作出、(2) 除核未受精卵子の凍結保存、(3) 体細胞核移植胚の作成に用いる核のドナー体細胞の検討、(4) 体細胞核移植胚の初期発生の飛躍的改善、の 4 つの課題についての研究を行うものである。 本年度は、このうち (1) についての研究を行った。すなわち、マウスをモデル動物として、雌獣の卵巣より GV 卵を単離し、成熟培養 (IVM) して MII 卵を得た。つづいて、この MII 卵の紡錘体を除去 (除核) したのち、体細胞 (卵丘細胞) の核を移植して再構築胚を得た。この再構築胚を初期発生させて、得られた胚盤胞期杯より内細胞塊を単離して 5 系列の ntES 細胞を樹立した。これらの細胞の未分化マーカーならびに、分化誘導後の分化マーカーを解析するとともに、キメラマウス作出実験を行った。その結果、4 系列の細胞がキメラマウスに寄与し、うち 1 系列では生殖細胞へのトランスミッションが確認された。 以上の成績から、ヒトにおいて、卵巣の手術検体より未熟卵を採取し、それを IVM 後に体細胞核移植に用いることができる可能性が拓かれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、本研究は、(1) 未熟卵子の体外成熟 (IVM) による未受精卵子の作出、(2) 除核未受精卵子の凍結保存、(3) 体細胞核移植胚の作成に用いる核のドナー体細胞の検討、(4) 体細胞核移植胚の初期発生の飛躍的改善、の 4 課題から構成される。本研究の目標達成のためには (1) の課題がもっとも重要かつ不可欠である。そのため、平成 23 年度は、(1) の課題に集中した。(1) は、将来的にヒトの手術時に摘出せざるを得なかった卵巣から、未熟卵子を単離・IVM して体細胞核移植に用いることを展望したものである。前述のように、その基礎的検討として、マウスを用いて IVM-MII 卵を体細胞核移植に用いることができる可能性を検討し、それを明らかにすることができた。したがって、この課題については当初の計画よりも早く進展している。 他方、課題 (2) ~ (4) については、(1) に研究を集中したために次年度に着手することとした。したがって、この点については研究計画よりも遅れている。しかしながら、前述のように、本研究の目標達成のための主要な課題である (1) が順調かつ予想以上に進展しているので、総体としては「おおむね順調に経過している」と自己評価し得る。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、(2) 除核未受精卵子の凍結保存、(3) 体細胞核移植胚の作成に用いる核のドナー体細胞の検討、(4) 体細胞核移植胚の初期発生の飛躍的改善、の 3 課題に着手する。 まず、(2) では、必要時に必要な数の未受精卵子を使用することを可能とするために、除核した未受精卵の凍結保存方法を検討する。申請者らは、すでにマウスを用いた除核未受精卵子のガラス化法による凍結、液体窒素中での保存、ならびに、解凍を試み、得られた除核未受精卵子を用いて、体細胞核移植胚・産仔が作出可能であることを明らかにしている。しかし、非凍結卵子を用いた場合と比較して胚盤胞期到達率・産仔獲得率とも低率であるので、凍結ならびに解凍の条件を詳細に検討し、凍結-保存-解凍した除核未受精卵子を用いた体細胞核移植胚において、非凍結卵子を用いた場合と同等の初期発生率・産仔獲得率が得られるような条件を確定する。 研究代表者らはすでに、マウスにおいて毛根細胞を核のドナー細胞とした体細胞核移植により、ntES 細胞ならびに産仔の作出が可能であることを明らかにしている。(3) では、それを発展させ、将来的な臨床応用を展望して、ヒトの体細胞核移植における核のドナーとして毛根細胞を用いることの妥当性について検証するとともに、それ以外の細胞を体細胞核移植時の核のドナーとして用いることの可能性について検討する。 さらに、現状の体細胞核移植胚の初期発生率は未だ低く、前述の (1) ~ (3) 項の研究目標が達成されたとしても、体細胞核移植技術のヒトへの応用は極めて困難であるので、(4) では、HDACi ならびに様々なエピジェネーシス調節・修飾因子について、同胚の初期発生を飛躍的に改善する条件を検索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
体細胞核移植技術は発展途上の技術であり、体細胞核移植胚の初期発生率は未だ低い。本研究は、その改善を目指したものでもあるが、そうであるが故に、本研究の遂行にあたっては、多数の未受精卵を準備し、他数回の体細胞核移植によって、多くの再構築胚を作出する必要がある。また、作出した再構築胚ならびに、それに由来する ntES 細胞の正常性や多能性の解析の目的で、多くの再構築胚の偽妊娠マウスへの移植や、キメラマウスの作出実験が必要である。したがって、次年度の研究費の大部分は、マウスの購入費、培養液、ES 細胞の維持・分化用の試薬、ならびに、体細胞核移植用の消耗品費に充当する。さらに、これまでの成果を学会において発表・討議するために、一部、旅費に充当する。 なお、体細胞核移植実験の遂行に必要な実験設備は申請者らの研究室に完備しているので、今回の研究費においては設備備品を購入しない。
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