研究課題/領域番号 |
23592405
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
浅野間 和夫 九州大学, 大学病院, 助教 (30380413)
|
研究分担者 |
福嶋 恒太郎 九州大学, 大学病院, 講師 (40304779)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 胎盤栄養膜幹細胞 / 分化 / 転写調節機構 |
研究概要 |
Satbの胎盤栄養膜細胞の分化における機能を探るためラットの栄養膜細胞Rcho-1にSatb1、Satb2を過剰発現させた細胞株を樹立してその表現型を解析した。Satb1、Satb2のいずれを導入した細胞も分化誘導刺激に対して抵抗性を示した。具体的には分化に伴う表現型であるendoreduplicationを抑制し、また分化刺激に対して起こる幹細胞マーカーの発現低下を抑制し、分化マーカーの発現上昇を抑制した。Satbはその中でも栄養膜幹細胞の未分化維持に必須な分子であるEomesの発現をmRNAレベルとタンパク質レベルの両方で著名に上げることを見出した。SatbがEomesを直接の標的として転写調節している可能性を考え、Eomesの転写調節領域を調べるといくつかのSatb結合配列の候補を見つけた。クロマチン免疫沈降法とゲルシフト解析にて転写開始点の125塩基上流にSatbが実際に結合することを見出した。さらにルシフェラーゼを用いたレポーター解析を行ったところSatb1とSatb2はいずれもEomesのプロモーター活性を上げ、両者の共発現によりさらに活性が上がった。また予想通り、SatbのノックダウンによりEomesのプロモーター活性は抑制された。Satbによるこの効果はレポーターのSatb結合配列に変異を入れることにより消失した。当課題の開始前に得られていたデータと今回得た結果を合わせて論文投稿し、掲載された(Asanoma et al., Journal of Biological Chemistry, 2012)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当課題の目的はSatbの栄養膜細胞における機能を明らかにし、その作用機序を解明することであった。我々はSatb遺伝子を導入した細胞株を解析することにより、Satbが栄養膜細胞の分化に重要な機能を有することを明らかにした。また、Satbの標的遺伝子を探索し、栄養膜細胞の分化を制御するマスター分子であるEomesを見出した。これらの結果をまとめ、世界的に権威のある学術雑誌に最初の1報を掲載することができた。我々は当初予定した目的を順調に達成していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
Satbは特にリンパ球細胞において3次元レベルで多数の遺伝子領域と同時に結合し、それらの遺伝子の発現調節を行っていることが知られている。Satbは栄養膜細胞においてもそのような遺伝子発現調節を行っていることが予想される。Eomesは栄養膜細胞においてSatbにより制御を受けている多くの遺伝子の一つに過ぎないと考えられる。実際、栄養膜細胞の分化を司る分子として知られているId1、Id2、Gata3の転写調節領域を調べたところSatbが結合すると考えられる候補配列を認めた。全ゲノム規模でSatbによる発現調節遺伝子群を同定するため、クロマチン免疫沈降法と次世代シークエンス法を合わせた解析(ChIP-Sequence解析)を行う予定である。この解析により得られた遺伝子のうち注目すべきものの個々についてクロマチン免疫沈降法とゲルシフト解析を行って、Satbが結合することを確認し、レポーター解析や発現解析によってSatbが実際に転写活性にかかわることを明らかにする。全ゲノム規模の探索により栄養膜細胞の分化や機能維持に関わる新規の遺伝子が明らかになる可能性があり、多様な発展性が期待される。
|
次年度の研究費の使用計画 |
Hemagglutinin (HA)をタグしたSatb1、Satb2をアデノウィルスにより遺伝子導入したマウス栄養膜幹細胞を用いてクロマチン免疫沈降-シークエンス解析(ChIP-Sequence)を行う。この実験は抗HA抗体とAgarose A/Gビーズを用いてDNA断片を免疫沈降させ純化する。単離したDNAにNew England Biolabs社のNEBNext DNA Sample Prep Reagent Setを用いてアダプターを付加する。Illumina社のStandard Cluster Generation Kitを用いてDNAを基盤上に固定し、固定したDNAを増幅しクラスターを作成する。Illumina社のCycle Solexa Sequencing Kitを用いてGenome Analyzer IIでシークエンス反応を行う。検体数はSatb1とSatb2の2種類に対してそれぞれ2検体ずつと陰性コントロール検体を加えて合計5検体になる。各検体につきシークエンス反応に150千円ずつで合計750千円、さらにアダプター付加やクラスター作成キットなどを含めて合計850千円を予定している。また、HAタグ、Satb1、Satb2、さらに本研究によって明らかとなる標的分子などに対する抗体として6種類X 70千円に加えて二次抗体等を加えて500千円を予定している。
|