【目的】本研究の目的は,妊娠恒常性維持機構における羊膜の役割の一端を解明することである.昨年度,それまでの羊膜細胞の単層初代培養方法に細胞・組織増殖の不安定性が認められたため,新たなflow cytometryを用いた上皮細胞分離法を確立した.本年度では,この方法により得られた羊膜上皮細胞および間葉系細胞の特性を検討するため,それぞれの遺伝子発現について網羅的に解析した. 【方法】妊娠37~39週での胎盤表面羊膜および辺縁羊膜を採取し,羊膜上皮特異的蛋白EpCAMを用いて,蛍光活性化細胞分離法で羊膜上皮細胞の分離を行った.分離細胞は,その形態やEpCAMおよび間葉系細胞特異的蛋白Vimentinを用いた免疫染色で確認した.得られた細胞において,羊膜採取部位ごとの相違や,初代培養細胞および継代後細胞における遺伝子発現の違いをmicroarrayにより比較解析した. 【結果】初代羊膜上皮細胞において,増殖・分化に関与するmidkine,FGF2の発現が低く,間葉系細胞では細胞性免疫に関連するHLA-A,HLA-B,HLA-Cの発現は低く,妊娠中に関与するとされるHLA-Gの発現は高かった.継代後,midkineの発現は両細胞で急速に増加した. また,間葉系細胞にて増殖・細胞周期に関わるS100A8や免疫系に関わるCD163,VSIG4,SPP1の発現が増加した.total RNAを用いたmidkine,HLA-Gに対する定量的RT-PCRにおいても同様の結果を確認した.なお羊膜の採取部位別における遺伝子発現の差異は認めなかった. 【結論】羊膜上皮および間葉系細胞において,増殖・分化に関与する遺伝子発現は低く,免疫抑制に関連する遺伝子発現は高いという結果が得られた.これらの遺伝子発現特性は,羊膜の免疫寛容におけるシグナル伝達機構としての役割を究明する一助となる可能性が考えられた.
|