研究課題/領域番号 |
23592415
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
福永 朝子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60464955)
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研究分担者 |
浜谷 敏生 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (60265882)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 排卵後加齢 / マウス / 酸素呼吸能 / マイクロアレイ / ミトコンドリア / 卵子 / 走査型電気化学顕微鏡 / 国際情報交流 |
研究概要 |
本邦では女性の晩婚化に伴い、卵子の加齢による質的低下が不妊治療の重要な課題となっており、卵子の加齢に伴う変化の解明は必要不可欠である。そこでマウス加齢卵子モデルとしてin vivo排卵後加齢モデルを作成した。マウス加齢卵子における遺伝子発現の変化を網羅的に解析した結果、ミトコンドリアおよびDNAメチル化に関連した遺伝子の発現が低下した。 ミトコンドリアは酸素呼吸を行なうことにより細胞内のエネルギー産生に関与する。そこで走査型電気化学顕微鏡 (scanning electrochemical microscope [SECM])を用いて、排卵後加齢による卵子の酸素呼吸能への影響を観察した。9週齢(性成熟期)のマウスの卵管より、排卵直後(新鮮卵)、排卵後9時間、排卵後32時間の未受精卵を回収し、新鮮卵と排卵後加齢卵子とで卵の酸素消費量を比較した。結果新鮮卵では0.31±0.01(X1014/mol s-1)に対して、排卵後加齢卵子では排卵後9時間で0.19±0.01、排卵後32時間で0.092±0.01(X1014/mol s-1)と、排卵後の経過時間に伴い酸素消費量が有意に低下した。 タンパクレベルにおいてDNAのメチル化関連遺伝子の発現が変化しているか観察するため、新鮮卵と排卵後加齢卵子で、ウェスタンブロットを行い、クロマチン遺伝子であるDnmt1タンパクの発現量を比較した。結果排卵後加齢卵子におけるDnmt1タンパクの発現量は排卵後の時間経過とともに減少した。このことより、転写産物のみでなく、翻訳産物においても発現量が変化していることが確認された。 本研究を通して卵子の加齢メカニズムの一端を明らかにすることで妊娠率の向上につなげ、生殖補助医療の向上に貢献したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスを用いて排卵後加齢卵子モデルを作成し、マウスの排卵後加齢卵における遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。結果、ミトコンドリアおよびDNAメチル化に関連した遺伝子群の発現の低下が観察された。 ミトコンドリア関連遺伝子群の発現低下が酸素呼吸能低下につながっているかどうか評価するため、走査型電気化学顕微鏡 (scanning electrochemical microscope [SECM])を用いて排卵後加齢卵の酸素消費量を観察した。結果、排卵後加齢が進むにつれて酸素消費量減少が確認された。この結果から、卵子のミトコンドリア機能の低下に伴って酸素呼吸能の低下が起こり、排卵後加齢卵の質的低下に関与している可能性が示唆された。 遺伝子翻訳産物の発現量を解析した結果、Dnmt1タンパクの発現量は新鮮卵に比較して排卵後加齢卵子において低下した。Dnmt1のようなDNAのメチル化に関連した遺伝子の減少は、エピジェネティックな変化が排卵後加齢の変化に関わっている可能性が示唆された。 胚の評価はこれまで形態学的評価しかなかったが、ミトコンドリア関連の遺伝子群に発現低下が酸素呼吸能低下につながっているのであれば、SECMによる胚評価はサイエンスとしての強いエビデンスを持った評価法となる。SECMを用いることでより正確な良好胚の選択を可能とするとともに、卵子の加齢による質的低下の病態解明に寄与したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、MII卵子において転写が積極的に動いて卵の質低下を招く可能性が示唆された。これまで排卵後のMII卵子は時間経過と共に受精能や胚発生能は低下するものの、その間の遺伝子の転写は停止していると考えられてきた。そのためMII期卵子において排卵後に転写が起こっているか証明することが必要である。排卵後加齢卵子において転写が起こっているか検討するため、予備実験として5-Bromouridine 5´-Triphosphate (BrUTP)の取り込み実験を行ったが、排卵後加齢卵子において明らかなシグナルは観察されなかった。しかしBrUTPの取り込み実験では抗体の分子サイズが大きく、免疫染色の過程で透過処置の条件が厳しく多くの卵子が解析途中で変成し、解析が困難であった。そこでより感度、特異度が高く、比較的透過処置の条件が弱くても解析可能な Click-iT RNA Alexa Fluor 488 Imaging Kit (Invitrogen)を用いて、排卵後加齢卵子における転写機構の有無を解析する予定である。 卵子の加齢メカニズムを理解するには、排卵後加齢と母体加齢を比較して両者に共通、ないし違うメカニズムを別個に理解することが重要だと考えている。そこで排卵後加齢卵(in vivo ageing)を用いた研究結果をふまえ、42~48週齢のマウスを用いた母体加齢(reproductive ageing)についても研究対象とし、同様の解析を加える予定である。母体加齢卵、排卵後加齢卵、新鮮卵を比較しながら、卵子の加齢による質的低下の病態解明について研究を進め、加齢メカニズムの一端を明らかにすることで妊娠率の向上につなげ、生殖補助医療の向上に貢献したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度同様の実験系に42~48週齢のマウスより採取した卵を実験に供し、母体加齢の影響を解析する。加えて Click-iT RNA Alexa Fluor 488 Imaging Kit により転写活性の有無の解析を行う。これらにかかる試験試薬や、解析費用、マウスの飼育など消耗品に予算の大部分を計上する予定である。未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。1) 母体加齢卵子における酸素呼吸能の解析:42~48週齢のマウスの卵管よりの未受精卵を回収し、走査型電気化学顕微鏡(SECM)によって排卵後加齢卵と同様に酸素呼吸能を測定し、母体加齢による酸素呼吸能への影響を解析する。2) 加齢卵子へのアポトーシスの関与の検討:排卵後加齢卵子ではpro-apoptotic遺伝子のBcl2l11の発現上昇が観察された。そこで、体外受精あるいは顕微授精、つづいて体外培養を行ない、受精能および胚発生能への加齢の関与を観察する。次に、caspase-3 assayおよびTUNEL法を用いて、排卵後加齢卵子におけるアポトーシスの関与の有無を観察する。3) 呼吸能が低下した卵子の受精能および発生能の検討:呼吸能が低下した卵子を上記と同様の実験に供し、受精能および胚発生能への加齢と呼吸能低下の関与、アポトーシスの有無を観察する。4) Click-iT RNA Alexa Fluor 488 Imaging Kit を用いた転写機構の解析:5-ethynyl uridine (EU)を添加した培地(KSOM培地)で排卵後加齢卵子および母体加齢卵子それぞれを30分間培養し、The Click-iT RNA Alexa Fluor 488 Imaging Kit を用いて転写の有無を詳細に解析する。
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