研究課題/領域番号 |
23592415
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山田 朝子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60464955)
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研究分担者 |
浜谷 敏生 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (60265882)
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キーワード | 排卵後加齢 / マウス / 酸素呼吸能 / マイクロアレイ / ミトコンドリア / 卵子 / 走査型電気化学顕微鏡 / 国際情報交流 |
研究概要 |
本邦では女性の晩婚化に伴い、卵子の加齢による質的低下が不妊治療の重要な課題となっており、卵子の加齢に伴う変化の解明は必要不可欠である。さらに、卵子は排卵後受精しない時間が長く経過すると発生能が低下し、質的な低下が起こることが知られている(排卵後加齢)。しかし排卵後加齢の背景にある分子生物学的メカニズムはいまだ不明な点が多い。そこで本研究では、排卵後加齢卵子における質的な低下を引き起こす因子を明らかにすることを目的とした。 マウス加齢卵子における遺伝子発現の変化を網羅的に解析した結果、ミトコンドリアおよびDNAメチル化に関連した遺伝子の発現が低下した。ミトコンドリアは酸素呼吸を行うことにより細胞内のエネルギー産生に関与する。そこで走査型電気化学顕微鏡を用いて、排卵後加齢による卵子の酸素呼吸能の影響を観察した。9週齢(性成熟期)のマウスの卵管より、排卵直後(新鮮卵)、排卵後9時間、排卵後32時間の未受精卵を回収し、新鮮卵と排卵後加齢卵子の酸素消費量を比較した。結果、新鮮卵と比較して、排卵後加齢卵においては排卵後の時間経過に伴い酸素消費量が有意に低下した。次にタンパクレベルにおけるDNAメチル化関連遺伝子の発現の変化を観察するため、新鮮卵と排卵後加齢卵子をそれぞれウェスタンブロットに供し、クロマチン関連遺伝子Dnmt1タンパクの発現量を比較した。結果、 Dnmt1タンパクの発現量は排卵後の時間経過とともに減少した。 以上より、排卵後加齢卵子においてミトコンドリア酸素呼吸能の低下およびDNAメチル化関連タンパクの発現低下が観察され、これらが発生能低下に寄与する可能性が示唆された。今後さらに卵子の加齢メカニズムを明らかにし、生殖補助医療の向上に貢献したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのマイクロアレイの結果より、MII卵子において排卵後転写が積極的に動いて卵の質低下を招く可能性が示唆された。しかしMII期に卵子では転写は停止していると考えられており、本仮説と矛盾する。そこで排卵後加齢卵子における転写の有無を検討するため、予備実験として5-Bromouridine 5’-Triphosphate (BrUTP)の取り込み実験を行った。結果、排卵後加齢卵子において明らかなシグナルは観察されなかった。ただし本実験ではBrUTPに対する抗BrdU抗体 (Bromodeoxyuridine)の分子サイズが大きいために透過処置の条件が厳しく、免疫染色の過程において多くの卵子が変性し解析が困難であった。そこで、Click-iT RNA Alexa Fluor 488 Imaging Kit (Invitrogen)による 5-ethynyl uridine (5-EU) の取り込み実験を行い、Zeiss LSM510レーザー共焦点微鏡下にRNAの転写の有無を観察した。結果、卵細胞質での明らかなシグナルは観察されなかった一方、 第一極体では新鮮卵および排卵後加齢卵子いずれにおいてもシグナルが観察された。さらに卵形成過程に合成されたmRNAを観察している可能性を否定するため、RNase A処理後PI (Propidium iodide)染色および5-EU取り込み実験を行ったところ、卵細胞質中のPI顆粒は観察されなくなった一方、第一極体におけるEUシグナルは変わらず観察された。 以上より排卵後加齢においては卵細胞質における明らかな転写活性は認められず、第一極体での転写活性が認められた。排卵後加齢により壊れるRNAがある一方、崩壊されず維持されているRNAが相対的に上昇した結果、卵の質的な低下が引き起こされる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
排卵後加齢卵と母体加齢卵を比較して両者に共通、ないし違うメカニズムを別個に理解することが今後の生殖補助医療にとって重要だと考えている。そこで排卵後加齢卵(in vivo ageing)を用いた研究結果をふまえ、42~48週齢のマウスを用いた母体加齢(reproductive ageing)についても研究対象として卵の加齢について更なる研究を進める予定である。 母体加齢卵、排卵後加齢卵、新鮮卵を比較しながら、卵子の加齢による質的低下の病態解明について研究を進め、加齢メカニズムの一端を明らかにすることで妊娠率の向上につなげ、生殖補助医療の向上に貢献したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
第一極体での転写を確認するため、第一極体を集めて遺伝子発現解析を行い、マイクロアレイと一致した結果が得られるか解析を加える。次に第一極体を除去した卵細胞質も同様に発現解析を行い、マイクロアレイの結果と比較することで、排卵後加齢により壊れるRNAがある一方、崩壊されず維持されているRNAが相対的に上昇した結果になった可能性について検討を加える。 これらにかかる試験試薬や解析費用、マウスの購入費用や飼育代などの消耗品、論文校正および投稿料に予算の大部分を計上する予定である。
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