研究概要 |
妊娠高血圧腎症は胎盤における血管発生や酸化ストレスの異常と関連しているといわれている一方、母体喫煙が妊娠高血圧症侯群のリスク低減に関連している。また、胎盤形成期の低酸素が絨毛の発育に重要な役割を担っていることが知られており、その形成過程の変化が、後の妊娠高血圧腎症や胎児発育不全などの病態形成に大きく関与していると考えられる。そこで、胎盤形成期の絨毛における血管発生や酸化ストレスに関連する遺伝子発現への喫煙の影響を評価する目的で検討を行った。 妊娠6-7週、妊娠10-11週で胎児心拍が確認された後に妊娠中断を選択した妊婦に対し、手術後の絨毛の提供を倫理委員会承認の上で妊婦に説明し、研究への参加に同意した妊婦から、手術直後に絨毛細胞を採取した。対象は31件であった。 組織は、RNAlaterに漬けて核酸を安定化し、その上でRNA抽出を行い、RT-PCRで定量化した。定量した遺伝子発現はVEGFA, Flt-1, sEng, PlGF, HMOX-1, SODである。母体の喫煙状況は血清中コチニン濃度で評価した。 喫煙群で絨毛のVEGFA発現は妊娠10-11週に、非喫煙者と比較して有意に高かったが、6-7週の絨毛においては有意差はなかった。他の遺伝子には喫煙状態による遺伝子発現変化はなかった。 絨毛のVEGFA発現は妊娠10-11週に、喫煙群で非喫煙者と比較して有意に高かった。喫煙妊婦の妊娠初期の喫煙がVEGFA発現を増強させることが、妊娠高血圧症候群のリスク低下につながるのかもしれない。
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