研究課題/領域番号 |
23592418
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
泉 泰之 日本大学, 医学部, 研究員 (50459872)
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研究分担者 |
早川 智 日本大学, 医学部, 教授 (30238084)
本多 三男 日本大学, 医学部, 客員教授 (20117378)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | HIV / 垂直感染 / 胎盤絨毛細胞 |
研究概要 |
我が国におけるHIV垂直感染は、抗ウイルス薬の投与、選択的帝王切開ならびに人工栄養使用により1%以下にまで抑制されているが、その感染機序に関しては依然として不明の点が多い。胎盤絨毛細胞におけるHIV感染のメカニズムを明らかにすることによって、HIV垂直感染の予防ならびに治療法が確立されることが期待される。これまでの研究において我々は、CD4を発現しない胎盤絨毛細胞においてHIV感染が成立することを認めたが、その詳細な機序は明らかになっていない。妊娠の際に、グラム陰性菌が起因菌となることの多い絨毛羊膜炎や細菌性腟症等を合併しているとHIV経胎盤感染のリスクが高まるという報告もあることから、グラム陰性菌の細胞壁構成成分であるLPSを用いてHIV感染、複製への影響を解析した。 研究に使用した不死化絨毛細胞株Sw71において、CD4はフローサイトメーターを用いた解析ではその発現は認められなかった。ケモカインレセプターCXCR4、CCR5mRNAレベルでの発現をPT-PCRにより確認し、フローサイトメーターを用いてタンパクレベルでの発現も確認した。同様にレクチンを介した系について検討したが、DC-SIGNはタンパクレベルでほとんど発現していなかった。LPSのレセプターであるTLR4、感染を修飾する可能性のあるプロラクチンやプロゲステロンといったホルモンのレセプターの発現もmRNAレベルで確認した。 Sw71にHIVを感染させた結果、細胞中にプロウイルスが検出され、さらに、Sw71をあらかじめLPSで処理しておくことによって、HIV複製が増加した。これは、妊娠の際に、グラム陰性菌感染によりHIV経胎盤感染のリスクが高まるという現象を実験的に裏付けできる結果であるので、今後その詳細なメカニズムを明確にしていくことが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リンパ球等の免疫系の細胞と比較すると、絨毛細胞におけるHIV感染、複製効率は極めて低い。そのため、感染後の培養上清中のウイルス量をELISA等を用いて定量しても極めて低い値しか検出されず、TLRリガンド、サイトカイン、ホルモン等で刺激した場合においても、コントロール群の値との正確な比較が非常に困難である。今後は、細胞内に組み込まれたプロウイルスコピー数の定量を試みる。 また、TNF-α等がオートクライン的に作用している可能性も考えられるので、抗体等を用いた阻害実験により確認する。
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今後の研究の推進方策 |
非免疫細胞において、CD4が発現していなくても、ケモカインレセプターのみでHIV感染が成立するという報告もされている。本研究で使用している絨毛細胞株において、ケモカインレセプターCXCR4及びCCR5発現が認められた。他のCD4非依存的なHIV感染経路として、レクチンを介した系が考えられるが、DC-SIGNに関しては、発現がほとんど認められず、マンノースレセプターについては検討中である。発現が認められたケモカインレセプターに関しては、HIV感染が実際にこれらを介しているかについて、レセプターのアンタゴニストを用いた阻害実験により明らかにする必要がある。上記のDC-SIGNのように無刺激の状態において発現していない場合においても、刺激により発現が誘導される可能性もあるので、同様に検討する。LPSのみならず、サイトカインやホルモンの刺激が、上記の各レセプターの発現レベルに与える影響とHIV感染、複製との相互関係を明らかにする。 LPSのレセプターであるTLR4の発現に関してはすでに確認しているが、TLR4と会合するLBP、CD14、MD-2及び細胞内のアダプター分子の発現に関しても解析し、TLR4のシグナル伝達系が正常に機能しうる状態にあることを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
絨毛細胞において発現しているケモカインレセプターのHIV感染との関わりを明確にするために、これらのアンタゴニストを購入する。細胞刺激のための、TLRリガンド、サイトカイン、ホルモンを購入すると同時に、阻害実験を行うため、抗体やアンタゴニストといった阻害系の物質を購入する。 HIV感染への関与が考えられる分子の発現確認に関して、絨毛細胞におけるmRNA発現検討のために、RNA抽出試薬、RT-PCR試薬、タンパクレベルでの検出のためにフローサイトメーターを用いた解析に使用する蛍光標識抗体、mRNAの発現変動を定量するためのreal-time PCR関連試薬を購入する。細胞刺激に使用するサイトカイン、ホルモンに関しては、それぞれのレセプターの確認、TLR4に関しては、それ自身のみならず、TLR4と会合する細胞内外の分子の発現を確認するために、RT-PCR、抗体等の試薬を購入する。 ウイルス感染実験において、プロウイルスの検出、定量のためのDNA抽出試薬、real-time PCR試薬、培養上清中のウイルス定量のためのウイルスタンパクp24のELISA、培地及び培養関連試薬、その他必要な消耗品に関してもこれまで同様に購入する。
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