研究課題/領域番号 |
23592424
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
孫田 信一 愛知医科大学, 公私立大学の部局等, 客員研究員 (00100165)
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研究分担者 |
黒川 景 日本赤十字豊田看護大学, 看護学部, 教授 (90399030)
佐賀 信介 愛知医科大学, 医学部, 教授 (40144141)
若槻 明彦 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90191717)
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キーワード | 染色体異常 / 出生前診断 / 母体血 / 21トリソミー |
研究概要 |
従来の出生前診断における羊水穿刺や絨毛採取法などの検査手技では感染や流産のリスクが0.3~0.5%ほどあるとされていて、そのことが出生前染色体検査をためらう理由の一つと考えられている。したがって、そのようなリスクを伴わない非侵襲性検査法の開発が望まれてきた。妊娠9週以降の妊婦の母体血中において、およそ血球10万個に1個程度の割合で胎児細胞が存在するとされている。そこで、本研究の目的はその胎児細胞の特性を利用した効率的な方法で胎児細胞を濃縮し、最終的に胎児細胞を分離する方法の確立を目指すことである。最近国内で開始された母体血の血清中のDNA解析による新しい方法はあくまで確率値の結果であり確定診断には至らないが、本検査法が樹立されると母体血中の胎児細胞による直接的な「出生前診断」が可能になり、その意義は極めて大きい。 本研究では、胎児有核赤血球nRBCやトロフォブラストをターゲットにして、母体血球との比重差、有核でヘモグロビンを多量に含む特徴的な細胞形態(有核赤血球)、胎児有核赤血球に特異なmRNAの発現、胎児細胞膜特異抗原などを胎児細胞の特性として利用した。昨年度から引き続き妊娠初期の女性から母体血の提供を受けて実験を実施した。まず母体血から定法により赤血球を分離除去した。次に厳密な密度勾配液を用いた遠沈分離法による胎児細胞の濃縮、胎児細胞膜特異抗体を塗布した特殊な培養チャンバーによる胎児細胞の吸着、FACSを用いた分離法などで胎児細胞の分離を目指した。これらの方法で得た細胞を胎児nRBCに特異なmRNA probeなどを用いたin situ hybridization法で胎児細胞の特定を図った。分離された細胞では特定遺伝子および染色体のDNAをprobeにしたin situ hybridizationで胎児細胞の遺伝子・染色体情報を取得する診断法の確立を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①妊娠母体血中から胎児細胞の分離法を開発するための試料として、妊娠初期(妊娠8~12週)とそれ以降の女性から末梢血各10mlの提供を受けて研究に当てた。十分なインフォームドコンセントを経て協力を要請してきたが十分ではなかった。②本年度も引き続いて母体血中に含まれる胎児有核赤血球(nRBC)の分離を目指したが、細胞膜抗原や胎児細胞の特性をできる限り温存する方法で血球を分離することが重要であることが判明した。また、胎児有核赤血球は成人の血球などに比べて微妙に細胞比重が異なるので、胎児有核赤血球の比重に合わせ厳密に調整した特殊な密度勾配の分離液を調整した。しかし、胎児有核赤血球は細胞間で細胞のサイズや密度にばらつきがあり、厳密にしすぎると回収率が低下する可能性があることが分かり、あまり厳密に最適密度を絞れないことが判明した。現時点でまだ母体血球の混入はかなり多いので、さらに回収率の高い分離液の組成を検討していく必要がある。③胎児細胞に特異的な細胞膜抗体を表面に塗布した胎児細胞分離用チャンバーに胎児細胞リッチな細胞混合液を入れて、チャンバー内壁に胎児有核赤血球細胞を付着させ、チャンバー内の母体血球を洗浄し、胎児細胞の回収を図った。胎児細胞により特異的な新たな抗体を確保することが最も重要な課題の一つである。④一方、胎児細胞の濃縮液を用い、胎児細胞特異的な膜抗体を蛍光色素で標識してFACSを用いて胎児細胞を回収する方法を検討したが、まだ十分な実績は挙げていない。⑤これらの方法で得た細胞固定標本を用いてCEP-Y probeなどによるFISH法でXY細胞の有無を観察し、胎児由来の細胞であることが判明している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23~24度に実施してきた研究計画・方法を継続し、より効率的な胎児細胞濃縮分離方法の改良を図る。平成25年度では妊娠母体血中から胎児細胞の分離法を開発するために、十分なインフォームドコンセントを経て協力の得られる妊娠初期(妊娠8~12週)の女性(20人)からそれぞれ10mlの末梢血の提供を受けて研究に当てる(研究分担者、若槻が実施)。胎児有核赤血球(nRBC)及び胎児トロフォブラストについてさらに有効な分離法を探る。特に胎児細胞特異的な抗体を見出し、それを塗布した培養チャンバーに胎児細胞リッチな液を入れて胎児細胞を付着させて回収を図る。既知の抗体のほかに胎児細胞膜に特異性を有するナノ抗体を見出して吸着分離を図る(主に孫田が実施)。また、蛍光色素標識した同様の抗体を胎児細胞に付着させ、FACSによる分離を試みる(黒川が担当)。これらの方法で分離した細胞試料のスライドグラス標本を作製し、形態学的特性を指標にして顕微鏡下で胎児nRBCを特定する(研究分担者の佐賀が実施)。また同様の標本を用いて、蛍光色素で標識した胎児細胞膜特異抗体をprobeに用いてin situ hybridization法で胎児細胞の特定を図る。また、蛍光標識した胎児有核赤血球に特異的なmRNAをprobeにしたFISH法で胎児細胞を特定する。さらに、分離特定した胎児細胞に関して、各種のprobe(No.13、18、21、X、およびY染色体などのDNA probeや、特定染色体の末端領域を識別するサブテロメアprobe、及び動原体近傍領域を標識するCEP probeなど)を用いたin situ hybridizationで胎児細胞の染色体構成を確認する(主に孫田が実施する)。以上の方法をさらに開発・改良して胎児細胞分離技術を完成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の直接研究経費は、平成25年度交付申請額直接経費90万円と平成24年度からの繰越額約50万円を合わせて約140万円である。これらの使用計画は以下のとおりである。平成24年度から継続するより効率的な胎児細胞濃縮方法、胎児細胞分離方法の開発改良(血液の遠心分離による胎児細胞の濃縮、胎児細胞を吸着させるチャンバーの作成改良等)に、約30万円の消耗品費を使用する。胎児細胞に特異的な抗体の購入(既知の抗体の中でより高度の胎児nRBC特異性を有する抗体のほか、ICB International, Inc. (San Diego, USA) 社が現在探索中の胎児nRBCに特異性を有するナノ抗体の購入)に約40万円の消耗品費を充てる予定である。FACSによる胎児細胞の分離技術の検討に消耗品費30万円を充てる。胎児細胞の特定のために、in situ hybridization法のprobe購入等(染色体13、18、21、X、およびYなどを含む各染色体の特定部位を標識するDNA probe、特定染色体の末端領域を識別するサブテロメアprobe、及び動原体近傍領域を標識するCEP probeなど)に消耗品費約30万円を充当する。本研究に関連する最新情報の収集を目的にした学会参加費として旅費10万円を予定している。
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