着床障害(子宮内膜機能異常)の病態は依然として不明であり、妊娠率向上のためにその病態解明や診断の確立は、少子高齢化社会における重要な課題である。このような背景のもと、子宮内膜機能調節を理解するためには、性ステロイドホルモンに制御される標的遺伝子の解析が重要となる。マイクロアレイ法を用いてヒト子宮内膜細胞でプロゲステロンにより制御される遺伝子の発現動態を網羅的に検討した。その成果として、Fibulin-1という細胞外基質タンパクがプロゲステロンで早期に誘導されることを見出した。ヒト子宮内膜でFibulin-1がどのように制御されているかを検討し、そこに関連する因子を同定するのを目的とした。ヒト子宮内膜組織を機械的および酵素的に融解して、培養ヒト子宮内膜間質細胞を分離培養し分子生物学的機能解析を行った。これらの細胞におけるFibulin-1 mRNA発現は、プロゲスチンの時間依存的に誘導されており、添加培養3日目には既に有意な増加をみとめた。Fibulin-1は、早期にPで誘導されるために、その発現を検討することにより、脱落膜化機能を早期から質的に評価できるものと期待される。不妊症例から子宮内膜を採取してFibulin-1の発現解析を行った結果、不妊症例でFibulin-1の発現低下することを見出した。今回の検討により、Fibulin-1の発現異常が子宮内膜機能に影響する可能性が示唆された。Fibulin-1を強制的に抑制した細胞で、増殖能、分化能、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)とSDF-1(stromal cell-derived factor 1)の発現を検討したところ、有意な変化を認めなかった。 今後、子宮内膜局所因子の発現解析と形態学的評価の組み合わせにより、診断に苦慮している子宮内膜機能障害に新たな展望を開くことが期待される。我々が見出した新知見は、将来の生殖医療の発展に大きく寄与すると考える。
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