研究課題/領域番号 |
23592429
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
横山 良仁 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90261453)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 光線力学的療法 / 5-アミノレブリン酸メチルエステル / プロトポルフィリンIX / 癌性腹膜炎 |
研究概要 |
光線力学的療法(PDT)が卵巣癌の播種巣で抗腫瘍効果を発揮するためには細胞内に取り込まれた5-アミノレブリン酸メチルエステル(Methyl-ALA)から変換されるプロトポルフィリンIX(PpIX)量が重要である。平成23年度は卵巣癌細胞でPpIX量の違いが起こる機序と癌性腹膜炎(PC)ラットにPDTを施した場合の効果を調べた。卵巣癌細胞DISSとMCASに5.5μMの Methyl-ALAを添加し細胞内PpIX量をHPLCで定量した。PpIXが代謝に関与するヘム合成と分解経路の変換酵素群の遺伝子プロファイルをマイクロアレイで解析した。DISS細胞でPCラットを作製し開腹後光照射のみ(コントロール)とMethyl-ALA ip+光照射 (Methyl-ALA-PDT)間、Debulking surgery (DS)のみとDS+Methyl-ALA-PDT間の生存期間の比較を行った。光源は無影灯と同じハロゲンランプを用い90J/cm2で照射した。1) PpIX量(μg/dl)はDISSで67.7±2.7、MCASで22.4±4.7であった(P < 0.005)。2) MCASではヘム合成経路のδALA合成酵素(3倍)、ヘム分解経路のHeme oxygenase 2(10倍)とBiliverdin reductase B(7倍)の遺伝子発現がDISSに比べ増加していた。3)Methyl-ALA-PDTはコントロールに比べ、またDS+Methyl-ALA-PDTはDSのみに比べ有意に生存期間が延長した(P < 0.01)。ヘム合成・分解とも活発な細胞では外因性のアミノ酸誘導体を取り込んでもPpIXが細胞内に蓄積されにくいことが示唆された。一方でMethyl-ALA-PDT はPCの有力な治療法の一つになることが示唆されPDTの治療効果を高めるには細胞内PpIX量の維持が重要になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究成果では、PDTの卵巣癌での抗腫瘍効果の違いは、ヘム合成・分解とも活発な細胞では外因性のアミノ酸誘導体を取り込んでもPpIXが細胞内に蓄積されにくいことが原因であることが判明した。一方でMethyl-ALA-PDT はPCの有力な治療法の一つになることが示唆され、PDTの治療効果を高めるには細胞内PpIX量の維持が重要になるという研究成果も得られた。しかしPpIXからヘムへの分化を抑制するGSTO1を細胞内に導入しMethyl-ALA-PDTの効果をin vitro、in vivoの両面から検証する研究計画が次年度へ繰り越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
GSTO1を細胞内に導入しMethyl-ALA-PDTの効果をin vitro、in vivoの両面から検証する研究計画を推進するためには、(1) GSTO1プラミドDNAを増やし、アデノウィルスベクター作製キット(AdMax TM Kit)を用いてGSTO1を組み込む。アデノウィルスベクター(AD)を取り込むことがすでに報告されているHRT細胞を用いる(Gene Ther 8; 1450, 2001)。(2) In vivo法で行うため、HRT細胞で皮下担癌マウス、癌性腹膜炎マウスを作製する。(3) GSTO1 DNAを組み込んだアデノウィルスベクター(GSTO1-AD)の投与法として腹腔内投与、静脈内投与、腫瘍局注、いずれの方法が腫瘍内にGSTO1-ADの取り込みが良好か調べる。GSTO1の腫瘍内取り込み量の定量はSouthern blot法で比較する。(4) 最適なin vivo法が決定されれば、DISS、MCAS、TOV21G等の細胞由来腫瘍にも、決められたin vivo法でGSTO1-ADを導入してみる。取り込みが不良な場合、p53抗体、HER2抗体等で取り込み量をアシストする方法を構築する。以上を方策として考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヌードマウス、ヌードラットを用いた動物実験が中心である。癌性腹膜炎モデルへのMethyl-ALA-PDTとクロフィブリン酸の効果を治療別にグループ化し生存期間を調べるためである。実験動物を150-170頭使用する実験計画である。治療のためのMethyl-ALAに費用を要するが、特注の腹腔鏡システムは開発済みである。平成23年度の研究成果をふまえ、光線力学的療法の卵巣癌への臨床応用の可能性を2012年10月バンクーバーで開催される国際学会で発表を予定している。また平成24年に繰り越しとなったPpIXからヘムへの分化を抑制するGSTO1を細胞内に導入しMethyl-ALA-PDTの効果をin vitro、in vivoの両面から検証する研究も推進する。
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