研究課題
子宮頸癌の原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)を標的とした免疫誘導を介した治療法の開発が本研究の目的である。そのために本研究では乳酸菌を利用した経口投与型の治療ワクチンを開発中である。 HPVのE7は恒常的に子宮頸癌で発現しヒトにおける抗原性もあるため、免疫療法の標的分子として有力な候補となる。我々はE7を乳酸菌に発現させたE7発現乳酸菌ワクチンを作製し製剤化している。これまでにマウスでの免疫誘導能の検討、ヒトでの子宮頸癌前癌病変に対する有効性の検討を行ってきた。マウスでの抗E7細胞傷害性T細胞(E7-Th1)誘導の検討でもヒトでの子宮頸癌前癌病変に対する第I/II相臨床試験の結果でも、E7発現乳酸菌ワクチンの量が一定量を上回るとかえってE7-Th1誘導が減弱し、臨床的効果が乏しくなることを見出した。つまり免疫誘導の観点からlimiting doseがあることがわかった。 そこで、子宮頸癌に対する新規治療ワクチンの効果を増強させるために、ワクチン抗原を増量するのではなく、アジュバントを併用する方が有効ではないかと考えた。本年度はE7-Th1の粘膜免疫誘導効果を増強させるために漢方薬アジュバントに注目した。十全大補湯と補中益気湯は免疫賦活作用があることが知られている。そこで、これら2つの漢方薬をE7発現乳酸菌ワクチンと同時経口投与して、さらに粘膜アジュバント(LTB)を加えた。その結果、粘膜におけるE7-Th1誘導はE7発現乳酸菌単独の3-4倍に上昇し、明らかな相乗効果が得られた。漢方薬も乳酸菌ワクチンも安全性は高く、かつ経口投与が可能であることから今後の臨床応用が期待される。現在行っている臨床試験の次のステップとして漢方薬を併用することを検討している。
2: おおむね順調に進展している
本年度はマウスにおける漢方薬併用によるワクチン効果の増強が確認された。子宮頸癌の前癌病変を標的にしたヒトでのE7発現乳酸菌の治療効果が確認された。ヒトでの臨床試験は現時点で10例に投与が行われ、dose-escalationによって最適な用量設定ができた。今後さらに最適用量で症例を蓄積する。その後に漢方薬の併用を検討している。
・E7発現乳酸菌の効果を増強させるために、E7特異的細胞傷害性T細胞と抑制性T細胞のバランスを規定している因子を検討し、至適用量の設定を裏付けるメカニズムを解析する。・E7は前癌状態にならないと強発現しない。そのためE7発現乳酸菌は十分に子宮頚部上皮内腫瘍を正常化することが難しい。そこで我々は初期上皮内腫瘍性病変にも発現がみられるE2に着目している。今後の研究では、乳酸菌を用いた経口ワクチンによって子宮頸癌の前駆病変である初期上皮内腫瘍を正常化させる効果増強をねらう。そこでE2発現乳酸菌の作製に入る予定である。
1)E7発現乳酸菌ワクチンの量依存性E7-Th1誘導がマウス、ヒトにおいて限界用量が存在したことのメカニズムを解明する。現在のところ、ヒトで高用量投与の際にE7特異的抑制性T細胞が出現していることを見出している。そこで次年度はマウスにE7発現乳酸菌ワクチンを用量を振って投与し、E7依存性にIL10産生を示すregulatory T(Treg)細胞の誘導を検討する。逆に漢方薬をはじめとするアジュバントを併用した場合にTreg誘導がどうなるかも併せて検討する。2)子宮頸癌前癌病変患者に対する臨床試験は至適用量(1g/日)を設定できたので、用量を固定して症例数を増やす。3)現時点ではマウスでの粘膜免疫による抗腫瘍効果は確認できない。E7発現乳酸菌のさらなる最適化をはかるためにマウスでの抗腫瘍実験としてE7トランスジェニックマウスを作製する。このマウスでは子宮頚部に上皮内腫瘍性病変を形成し、エストロゲン添加によって癌化する。そこでマウスの子宮頚部腫瘍性病変に対する開発中の薬剤の抗腫瘍効果を検討する。2)子宮頚部上皮内腫瘍性病変(CIN1-2)を乳酸菌ワクチンの対象できるように、E2発現乳酸菌の作製とその評価系の樹立を行う。
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