研究課題
本研究では、子宮頸癌前癌病変を有する症例に対しHPV16E7発現乳酸菌ワクチン(GLBL101c)を経口投与し、腸管免疫を介して子宮頸部への抗E7粘膜免疫誘導するHPV治療ワクチン開発をめざした。その薬理効果増強のため、漢方アジュバントの有効性を検証した。E7発現乳酸菌ワクチンの有効性を高めるために、粘膜免疫誘導能の増強を図る目的でアジュバント併用による相乗効果をマウスモデルで検討した。臨床応用されているアジュバントとして、漢方薬とalpha-GalCerの併用を考えた。マウス実験により、GLBL101cに加え、漢方薬(補中益気湯)とalpha-GalCerを併用した経口投与を行った。1, 2, 4, 6週の4クールで経口投与し、7週で腸管リンパ球と脾臓リンパ球を採取し、E7-CMIを調べた。免疫賦活作用が知られている補中益気湯(HET)と乳酸菌、粘膜アジュバントLTBを併用することによってE7-CMIを粘膜リンパ球に誘導する作用が相乗的に増強すると考えられたが、LTBは毒性の問題からヒトへの投与が難しい。そこで、本年度は、LTBに代わって、ヒトでの使用経験のあるalpha-GalCerを粘膜アジュバントとして用い、同様の検討を行った。マウスに1mg/headのGLBL101cを経口投与する際に、alpha-GalCerとHETを併用することにより、GLBL101c単独と比べて約2倍のE7-CMI上昇が観察された。粘膜リンパ球におけるGLBL101c+HET+ alpha-GalCer によるE7-CMI誘導能は、GLBL101c+HET+LTBによる誘導能よりも高いことがわかった
2: おおむね順調に進展している
癌ワクチン療法では、安全性が高いものの、免疫寛容が問題となる。特に、経口投与ではoral toleranceが危惧される。本研究では検討していないが、本治療薬の長期投与、大量投与はかえってE7に対する特異的免疫寛容を誘導する可能性もある。そこで、E7-CMI誘導を増強する戦略として、アジュバントを導入することを検討した。漢方薬は実地臨床で日常的に使われている薬であり、かつ多くのアジュバント効果が報告されている。中でも補中益気湯(HET)は、昨年度までの検討から最も有望であった。全身性免疫の誘導にはHETのみでも相乗効果が示されたが、粘膜免疫誘導には、HETだけでは効果は乏しく、粘膜アジュバントが必要であることがわかった。そこで、今回の検討では、合成セラミドであるalpha-GalCerをLTBの代わりに用いた。Alpha-GalCerは、抗原提示分子であるCD1dによって提示され、NKT細胞の特異的リガンドである。この併用によって、NKT細胞が活性化され、NK細胞、Th1細胞、CTLがIFNgによって活性化される。NKT細胞系による腸管粘膜免疫が賦活化され、E7に対する獲得免疫誘導が増強したと考えられた。Alpha-GalCerは、樹状細胞療法の活性化剤としてヒトでの投与経験も報告されていることから、今後のアジュバントとして漢方薬とともに実用化が期待される。
我々が行っている子宮頸癌前癌病変CIN3に対するHPVE7発現乳酸菌癌ワクチンGLBL101cの第I/IIa相臨床試験の結果では、腸管の粘膜免疫を介して、ヒトの子宮頸部におけるE7特異的細胞性免疫を誘導でき、病理学的有効性が得られていることから、薬理効果に伴った臨床効果と考えられた。GLBL101cの4 cap/日投与における奏効率80%は、明らかな臨床効果を考えられた。この臨床試験で得られた薬理効果をさらに増強するために、漢方薬と粘膜アジュバントの併用は、さらなる臨床効果の増強と、低コスト化を期待させる。本研究で行っているマウスでの基礎研究をさらに発展させることで、現行の臨床試験薬との併用をCIN3患者や子宮頸癌患者に対して投与してアジュバント効果を検討できると考えられる。
E7発現乳酸菌薬GLBL101cと漢方薬+alpha-GalCerを併用する戦略で、ヒトへの試験を目指すが、そのための前臨床として、抗腫瘍効果や子宮頚部局所での粘膜免疫応答を免疫学的に証明することが必要である。また、これらの癌ワクチン療法に対する免疫寛容の可能性を検証する必要がある。次年度はこれらの隙間を埋めることによって、臨床応用へ近づける予定である。
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