研究課題/領域番号 |
23592437
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
織田 克利 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30359608)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | Ras / PI3K経路 / mTOR / 分子標的治療 / バイオマーカー / PIK3CA / PTEN |
研究概要 |
【目的】Rasシグナル伝達経路は様々な癌種で活性化されており、下流にあたるPI3K/mTOR経路とMAPK経路を標的とした阻害剤の臨床試験が進行中である。子宮体癌では、PI3K/mTOR経路を活性化するPTEN, PIK3CA変異に加え、K-Ras変異の頻度も高い。子宮体癌株を用いて、mTOR単独阻害剤とPI3K/mTOR同時阻害剤の抗腫瘍効果の比較を行った。【方法】子宮体癌細胞株13株を、{A群} PTEN, PIK3CAの少なくとも一方の変異陽性、かつK-Ras変異陰性(n=9)、{B群}K-Ras変異(遺伝子増幅を含む)陽性(n=4)に分類した。mTOR単独阻害剤:RAD001と、PI3K/mTOR同時阻害剤:BEZ235を添加し、IC50値をMTT assayにて比較した。Western Blotting法にてPI3K/mTOR経路の阻害効果を確認し、細胞周期に与える影響をFlowcytometry法にて評価した。in vivoでは、ヌードマウスの皮下移植モデルを作成し、それぞれの薬の連日経口投与を行った。【成績】RAD001では、濃度依存性変化が乏しく、IC50値が高いものが多かったが、BEZ235では、濃度依存的に細胞増殖抑制が顕著に認められた。PI3Kの下流のAKTのリン酸化抑制の有無が濃度依存性と相関していた。MTTアッセイにおいて、RAD001では変異と有効性に相関はみられなかったが、BEZ235ではA群で有意に抗腫瘍効果が高かった。細胞周期G1停止も濃度依存的な誘導がBEZ235で有意に強く誘導されていた。BEZ235のin vivoでの抗腫瘍効果も確認された。【結論】子宮体癌において、PI3K/mTOR同時阻害剤はmTOR単独阻害剤に比べ、より効果的な治療法であることが示唆された。K-Ras発現異常の有無がバイオマーカーとして有用であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに研究を遂行できており、研究の成果を英語論文として投稿し採択された (PLos ONE, in press)。また、日本のJournal癌と化学療法誌の特集「分子標的治療薬におけるバイオマーカーの役割」においても研究成果の一端を紹介し、バイオマーカーの可能性についても言及した。 昨年度までの研究課題(若手研究B:21791544)「Ras-PI3K経路を標的とした選択的p110阻害剤による抗腫瘍効果の解析」におけるデータをもとに、成果を積み重ねることができたことで、順調に研究を進めることができていると思われる。 その一方、論文投稿の過程で、併用療法の効果、抵抗性の克服など、もともとH24年度以降に研究の必要性を挙げていた課題の重要性も明らかとなっており、今後も引き続き研究を遂行していく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
子宮体癌株を用いて引き続き、解析を進める。(1)PIK3CA, PTEN, K-Ras以外にPI3K/mTOR阻害剤のバイオマーカーとなる因子が存在するか否かを検索する。(2)MAPK経路阻害剤や他のチロシンキナーゼ受容体阻害剤とPI3K/mTOR阻害剤の併用効果を検討する。(3)mTOR阻害薬の抗腫瘍効果、Autophagy阻害など生物学的特性について、解明を進める。 卵巣癌株において、分子標的治療薬の抗腫瘍効果を検証する。(1)明細胞癌株における、PI3K/mTOR阻害剤の抗腫瘍効果の検証。(2)粘液性腺癌株におけるMAPK経路阻害剤の抗腫瘍効果の検証。(3)卵巣癌各組織型における分子プロファイリングの確立と新たな標的因子の同定 などを予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費として約120万円を予定している。主なものは、抗体、MTTアッセイ試薬、siRNA、シークエンス解析、細胞培養器具、アポトーシス検出(Annexin V)試薬などである。 その他、論文の英語校正費、旅費として、30万円の使用を計画している。 実験内容によっては、実験用動物・飼料などでさらに50万円ほど消耗品費がかさむ可能性があるが、本年度の残額を充当することで予算の範囲内で研究を施行していける見込みである。
|