研究課題
【目的】子宮体癌および卵巣癌は、腺癌として種々の組織型が存在しており、特に類内膜腺癌の子宮体部、卵巣同時発生癌の頻度が高く、重複癌なのか、一方から他方への転移なのかが、臨床上問題となることが多い。そこで、子宮体部・卵巣同時発生類内膜腺癌を用いて、分子遺伝学的な新たな診断法の探索を行った。【方法】子宮体部卵巣同時発生癌5症例、10サンプルについて解析した。Single nucleotide polymorphism(SNP)タイピングアレイによる染色体コピー数異常、及びKRAS,PIK3CA,PTEN,CTNNB1の変異とマイクロサテライト不安定性(MSI)を解析した。【成績】SNPタイピングアレイにおいて、CNAの以上を染色体1番から性染色体Xに至るまで一覧にまとめ、CNAについて詳細に比較検討を行った。子宮体部・卵巣の少なくともいずれか一方に染色体コピー数異常(Copy number alterations: CNA)が認められた。5例中1例においては、子宮体癌に1か所もCNAがないにも関わらず、卵巣癌では3か所のCNAが認められ、重複癌の可能性が強く示唆された。他の4例ではCNAのパターンが合致しており、子宮体癌からの卵巣転移(卵巣癌からの子宮体部転移は肉眼的に否定的)と考えられた。遺伝子変異、およびMSIの検索において、上記のSNPタイピングアレイの診断が妥当であり、臨床病理学的な診断とは5例中1例でしか合致しないことが明らかとなった。【結論】SNPタイピングアレイは、CNAを抽出するうえで高解像度の方法であり、転移か重複癌かの診断において有用であることが明らかとなった。同解析技術は、CNAの部位、個数、がん関連遺伝子の発現異常といった分子生物学的な特徴を明らかにするのみならず、従来の病理学的診断では確定しがたい診断にも応用可能であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
予定通りに研究を遂行できており、研究の成果を英語論文として投稿し、採択された (International Journal of Gynecological Cancer)。また、H24年度のAmerican Association for Cancer Research (AACR) Annual Meetingをはじめ、国内外の学会発表の場でも研究成果を報告した。昨年度までのRas/PI3K経路を標的とした治療効果を予測するバイオマーカー探索に続いて、新たな診断的なバイオマーカーとして染色体コピー数の有用性を示す成果が得られ、子宮体癌・卵巣癌の分子生物学的特徴のさらなる解明に寄与したものと考えられる。H25年度以降においても、これまでの成果をもとに子宮体癌・卵巣癌における新規分子標的治療法とそのバイオマーカーの探索研究を遂行していく予定である。
今後については、以下の2つのプロジェクトを中心に研究を進めていく予定である。一つは、子宮体癌においてさらなる遺伝子変異の探索とその意義の解明である。Ras/PI3K経路に関連した未知の遺伝子変異の同定を行い、その機能解析を進めていくことを計画している。もう一つは、卵巣癌におけるRas/PI3K経路、およびMAPK経路を標的とした分子標的薬の抗腫瘍効果とそのバイオマーカーの探索である。明細胞腺癌のほか、粘液性腺癌や漿液性腺癌も加え、幅広く卵巣癌に有用な分子標的治療法を見いだすべく、研究を推進していく予定である。
昨年度はH23年度に購入した消耗品等を有効に活用することを通して、計画予算内で研究を進めることが可能であった。本年度については、より詳細かつ網羅的な解析が必要であり、各種抗体、MTTアッセイ試薬、siRNA、細胞培養器具、実験用動物、飼料、マイクロアレイ試薬などの消耗品として200万円を予定している。また、研究成果発表のための旅費、英語論文投稿に関する費用として約60万円を使用する見込みである。
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