研究課題/領域番号 |
23592438
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
尾林 聡 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (10262180)
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研究分担者 |
久保田 俊郎 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50126223)
寺内 公一 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (90361708)
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キーワード | equol / estrogen / nitric oxide |
研究概要 |
植物エストロゲンのひとつであるエクオール(EQ : 10mg/日)摂取はホットフラッシュという更年期症状を有意に改善するという報告があり、この血管運動系更年期症状は血液循環の影響を受け、特に血管内皮機能と関係があることが考えられるが、EQ単独の血管内皮機能に対する作用機序を検討した報告はほとんどない。EQのヒト血管内皮への作用を調査する基礎j情報として、卵巣摘出ラットの内皮機能に対するEQの影響を徐放ポンプを用いた系を用いて調査をした。 ラット(12週齢)で卵巣を摘出し、16週からポンプによるEQの補填を行い、20週で胸部大動脈、頸動脈、尾動脈の3部位の血管を摘出し、マグヌス装置にセットし、等尺性張力変化を出力・記録し、血管内皮のNO産生能に関してエストロゲン補填ラットと比較をした。内皮依存性弛緩剤としてacetylcholine、内皮非依存性弛緩剤としてsodium nitroprussideを 累積投与した。酵素阻害剤としてNO合成酵素阻害剤のNG-nitro-L-arginine (LNA:10-4M) あるいはcyclooxygenase阻害剤であるindomethacinを使用し、弛緩反応(%)はU46619による前収縮に対する弛緩の比として算出した。 血管の3部位ともにEQではE2と同様な内皮機能の改善効果を認めたが、投与したEQの濃度により改善効果に部位差があり、例えば経動脈ではほぼEQ濃度依存性のNO亢進が観察されたが、大動脈では代償性に過分極因子の放出が確認されているという他に見ないユニークな結果が出た。現在、これらの知見を確認するとともに、さらにヒト子宮動脈への動物の結果の応用を検討しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記NOのbioassayのほかにも以下の実験系を用いてEQの内皮への効果と肥厚形成モデルにおける影響を検討している。 1ポンプの埋め込みから2週間後に、ケタラール麻酔下で左外頸動脈から2Fr Fogarty Arterial Embolectomy Catheter (Edwards lifescience) を挿入し、左総頸動脈内でバルーンによる左総頸動脈の剥離モデルを作成し、組織学的検討も併用して、肥厚形成抑制効果をE2と比較した。E2では肥厚の有意な抑制を認め、同時に内皮よりのNO産生を認めたが、EQではNO産生が認められず、また肥厚形成も無投薬群と差を認めなかったため、E2とEQのあいだで内皮の再生能の差があることが示唆されている。 2内皮由来のNO産生の差を裏付けするために、NOの2nd messengerであるcGMPの平滑筋内の蓄積をradio immunoassay kitを用いて測定した。phosphodiesterase阻害剤であるIBMX (3-isobuty-1-mrthylxanthine) で20分間さらに培養し、U46619により15分間刺激した後、Ach (10-6M) で10分間刺激し、液体窒素により組織を急速凍結しところ、等尺性張力変化の結果と同様に、E2およびEQ群におけるcGMP産生増加を確認することができた。 3ウエスタンブロット法を用いて、内皮型NO合成酵素(NOS)のタンパク発現を検討したところ、E2およびEQ血管内皮における発現増加を確認することができた。 4子宮重量および体重変化の測定からはE2群で見られる子宮肥大と体重減少がEQ群では見られず選択的エストロゲン受容体モジュレーターとして、EQは妥当な範疇に入っていると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
現在継続してモデルラットの作成が行われており、徐放ポンプによるEQおよびE2の補填ラットが十分に使用可能な状態となっている。NOSの発現には差がある可能性があるが、その一方でEQ補填群での血管平滑筋内cGMP産生の増加が示唆されており、cGMPが肥厚形成の抑制効果を有することから、EQの投与された濃度によっては動脈硬化に対して抑制的に作用する可能性が考えられる。このためcGMP変換酵素であるguanylate cyclaseの活性や代謝酵素であるdiesteraseの発現・活性などの平滑筋側における変化を検討する必要がある。 また今まで蓄積された動物でのEQの作用をもとにして、摘出したヒト子宮動脈に対する組織培養も継続して行い、張力変化やタンパク発現、mRNAを指標としてヒト組織においてもEQが同様な効果を有するかどうかを検討する必要がある。具体的にはヒト子宮動脈肥厚血管において内皮からの内因性NOS阻害因子の蓄積、アルギナーゼ活性、オルニチン脱炭酸酵素活性ならびにオルニチンアミノ基転移酵素活性亢進に伴うNO産生低下と細胞増殖因子プトレシン産生亢進、細胞外基質であるコラゲン前駆体プロリン産生亢進が確認されているため、これらNO産生および肥厚形成因子に対してのEQの影響を検討する予定である。 さらに本年度は得られたデータの公開を目的として、論文作成、海外の学会を含めての演題発表を予定されている。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な使用計画としてはRIAを用いたcGMPおよびcAMPの測定キットの購入、実験動物の購入、さらに各種試薬の購入に、研究費は使用する予定である。 また一部は論文掲載費用にも使う予定である。
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