研究課題/領域番号 |
23592439
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高倉 正博 金沢大学, 大学病院, 助教 (20313661)
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研究分担者 |
京 哲 金沢大学, 医学系, 講師 (50272969)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / ウイルス療法 / 末梢血中腫瘍細胞 |
研究概要 |
本研究ではテロメラーゼが活性化された細胞でのみ増殖可能な改変型アデノウイルス(Telomerase-specific replication adenovirus: TRAD)を用いた難治性婦人科癌の治療、特に癌幹細胞をターゲットとした治療の開発を第一の目的とする。我々はTRADのマウス卵巣癌腹膜播種モデルにおける有用性を示してきたが(Cancer Gene Ther. 2010; 17:11-9)、本研究ではさらに癌幹細胞に対する有効性にフォーカスして抗腫瘍効果の解析と臨床応用に向けた検討を行う。平成23年度は卵巣癌細胞株SKOV3においてCD117陽性かつCD44陽性細胞の細胞群をがん幹細胞候補として同定し、これを対象とした検討を行った。CD117+/CD44+細胞群は他に比してより高い増殖能と造腫瘍能を認めた。また抗癌剤シスプラチンに対して抵抗性を示した。これに対しTRADは他分画に比べて高い殺細胞効果を示した。またシスプラチン処理によってCD117+/CD44+分画は増加したのに対し、TRAD処理ではこの分画は減少した。以上よりTRADは卵巣癌幹細胞に対して有効に殺細胞効果を示す可能性が示唆された。第二の目的はTRADを応用したGFP発現型TRADを用いた癌細胞イメージング技術の確立と実用化に向けた臨床的意義の解明である。具体的には末梢血中の極少数の腫瘍細胞(circulating tumor cells: CTC)を GFP発現型TRADを感染させることで発光させ可視化するものである。平成23年は白血球への非特異的感染によるGFP発光を除外するための白血球共通抗原であるCD45の標識を加えることでより高いウイルス濃度での感染が可能となりコントロール(正常血液5mlに子宮頸癌細胞株C33A 100個加えたもの)での検出率が80%程度まで向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)TRADの婦人科癌幹細胞に対する効果の検討In vitroの実験系においてCD117陽性かつCD44陽性細胞の卵巣がん幹細胞候補細胞群に対するTRADの有効性が示唆された。現在、他癌腫でも同様の検討を行なっている。さらに既存の抗癌剤や分子標的薬との併用についても検討を開始している。また免疫不全マウスへの皮下への腫瘍細胞の移植によるin vivo実験系での検証にも着手しており、研究は概ね順調に進行していると考えられる。(2)TRAD-GFPを用いた末梢血中腫瘍細胞 (CTC) の検出本システムにおいてはウイルス濃度を上げると白血球へのTRADの非特異的ウイルス感染によるGFP発現の増加が避けられないという問題点があったが、白血球共通抗原CD45の標識を加えることで、GFP陽性かつCD45陰性細胞をCTCとして明確に区別できるようになった。この改良により特異度が高まると共にウイルス濃度を上げることが可能になり、検出感度も高くなり、システムの有効性がかなり向上した。また観察者の経験に左右されない客観的なCTC判定基準も確立されつつある。これらの検出方法を応用して、本学倫理委員会の承認ならびに被験者のインフォームドコンセントのもとに婦人科癌患者の血液を用いたCTC検出実験が進行中である。対象は子宮頚癌、子宮体癌、卵巣癌患者であるが、現在のところ30~40%程度の検体でCTCが検出されており研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして、下記のような実験を予定している。(1)TRADの婦人科癌幹細胞に対する効果の検討。セルソーターで分離された婦人科癌幹細胞を用いてTRADのin vitroおよびin vivoにおける効果の検証をさらに継続する。in vitroでの殺細胞効果はWT-1アッセイで検証する。各種抗癌剤、分子標的薬、放射線との併用効果についても同様に検証する予定である。この実験から得られたデータをもとにマウス皮下腫瘍ならびに腹腔内腫瘍での併用効果を検証する。TRADは局注および腹腔内投与を予定しているが、これらの投与法以外にも実際に臨床応用する場合を想定して血中投与の有効性も探りたい。(2)TRAD-GFPを用いた末梢血中腫瘍細胞(CTC)の検出婦人科癌患者の血液を用いたCTC検出実験をさらに継続する。得られたデータと臨床病理学的因子あるいは予後因子との相関の有無を検討する。CTCの測定はそれぞれの症例において治療開始前と開始後ならびに、その後も経時的に検討を加える予定である。さらに従来のCTC検出法では上皮間葉転換(EMT)を起こした細胞を検出できない可能性が危惧されているが、TRADを用いた検出法がこの点を克服できているか検証するためにin vitroにおいてEMTを惹起する系(E-cadherin knock-down等)を用いてTRAD-GFPの感染実験を行い、癌細胞の検出率を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度はin vivo実験が本格的に稼働しなかったため、主に実験動物を購入するための予算を次年度使用予定とした。平成24年度の研究においてはこの予算も加え、実験動物の購入ならびに細胞表面抗原を認識するための抗体、細胞培養に必要な培地・プラスチック器具類等の消耗品の購入等の消耗品を主に研究費を使用する予定である。必要に応じてDNAシークエンシングやDNAマイクロアレイなどの実験も追加する予定であるが、これらに関しては外注となるため、それに関する費用も追加される可能性がある。また研究結果の報告のための学会発表あるいは論文発表に関する経費も計上する(旅費、英文チェック、論文掲載料等)。なお、本研究に使用するウイルス(TRADおよびTRAD-GFP)はオンコリス・バイオファーマ(株)との共同研究契約(締結済み)に基づき同社より供給される。
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