研究課題/領域番号 |
23592447
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
澤田 健二郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00452392)
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研究分担者 |
馬淵 誠士 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00452441)
磯部 晶 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60397619)
橋本 香映 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90612078)
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キーワード | 卵巣癌 / 腹膜播種 / 腹膜中皮細胞 / マイクロRNA |
研究概要 |
癌細胞の腹膜播種が進展して発症する癌性腹膜炎の治療は極めて難渋し、消化器癌や卵巣癌の死因に直結する。そこで、我々は腹膜播種を形成する微小環境細胞、癌細胞に焦点をあて、それを制御する分子を同定するべく研究を行っている。 まず、実験の第一段階として、腹膜播種環境の形成する細胞の初代培養を行った。まず、婦人科悪性手術における大網摘出術の際に大網の正常部分を一部細切し、これを無菌化にコラゲナーゼ処理することにより腹膜中皮細胞を分離した。この初代培養細胞が中皮細胞であることは敷石状の形態および Vimentin の免疫染色により確認した。この腹膜中皮細胞を 96-Well の細胞培養皿に一層になるように培養し、腹膜表面の In vitro での再構築を行い、その上に蛍光色素で標識した卵巣癌細胞株 SKOV3ip1 を撒き、癌細胞と腹膜中皮細胞の接着を確認した。 続いて、卵巣癌細胞が接着する際に血流の支配を離れ、低酸素状態に陥ることに着目した。卵巣癌細胞を1%O2 の低酸素刺激下に48時間培養し、20%O2 条件下と比べて、変動するマイクロRNAの網羅的な解析を行い、hsa-miR-199a-3p (miR-199a-3p) が低酸素刺激により有意に減少することを見出した。さらに解析を進め、miR-199a-3pは癌の播種、増殖に重要なチロシン受容体キナーゼの一つであるc-Met の発現を制御していることを確認した。即ち、卵巣癌細胞が低酸素刺激におかれた際に、miR-199a-3pの発現が抑制され、その結果、c-Metの発現が増強し、癌の腹膜播種がさらに促進されることをIn vitro の実験系で証明した。今後はさらなる検討を、腹膜播種モデルマウスを用いたIn vivo の実験系および臨床検体における c-Met の発現の腹膜播種に与える影響の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今研究課題の目標の一つはIn Vitro での3D腹膜播種モデルの構築である。腹膜中皮細胞の安定した初代培養に成功し、既に実験に応用している。および骨髄由来細胞の初代培養には既に成功している。腹膜播種の成因はいうまでもなく癌細胞、腹膜微小環境細胞双方にあるが、本年度の検討では、卵巣癌におけるマイクロRNAに着目した。低酸素刺激での培養細胞を用いて網羅的な解析を行い、すでにいくつかの候補マイクロRNAを同定している。さらにその一つであるmiR-199a-3pに着目し、それがc-Metの発現を制御すること、c-Met が腹膜播種形成を促進することも確認している。以上、一定の成果を創出しており、研究は当初と若干変更されているもののおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はmiR-199a-3pが卵巣癌腹膜播種に与える影響をIn Vivo および臨床検体を用いて行う。まず、卵巣癌細胞にmiR-199a-3pを恒常的に発現するようにLentivirus Vector を米国Biosettia 社より購入し、細胞株SKOV3ip1 を用いて、miR-199a-3p安定発現株を作成する。この安定発現株を雌の免疫不全マウスに腹腔内投与し、マウス内で腹膜播種を形成させる。しかるのち、マウスを安楽死させ腫瘍形成重量、播種数をControl Vectorを導入した細胞と比較検討する。臨床検体に関しては、岐阜大学産婦人科との共同研究で行う。岐阜大で患者同意のもと作成された組織マイクロアレイを用いて、c-Met の免疫組織染色を行う。そして、c-Metの発現が卵巣癌患者の病期、予後、腹膜播種に与える影響を後方視的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記研究計画を遂行するためには少なくとも40匹の免疫不全マウスが必要である。その購入費、維持費で少なくとも20万程度は必要とする。さらに安楽死させたあとの組織切片の作成、免疫組織染色に相当程度の研究費を必要とし、これに充当する。また、安定発現細胞株を培養するための培地、FBS、抗生剤などの消耗品も必要であり、それらの購入に使用する。岐阜大学から供与を受ける組織マイクロアレイは極めて貴重で実験のやり直しがきかないため、その免疫組織染色は外部業者に委託する。その費用に研究費を用いる。
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