研究課題
癌細胞の腹膜播種が進展して発症する癌性腹膜炎の治療は極めて難渋し、消化器癌や卵巣癌の死因に直結する。そこで、我々は腹膜播種を形成する微小環境細胞、癌細胞に焦点をあて、それを制御する分子を同定するべく研究を行っている。本研究では、卵巣癌細胞が接着する際に血流の支配を離れ、低酸素状態に陥ることに着目した。卵巣癌細胞を1%o2 の低酸素刺激下に48時間培養し、20%O2 条件下と比べて、変動するマイクロRNAの網羅的な解析を行い、hsa-miR-199a-3p (以下miR-199a-3p) が低酸素刺激により有意に減少することを見出した。さらに解析を進め、miR-199a-3pは癌の播種、増殖に重要なチロシン受容体キナーゼの一つであるc-Met の発現を制御していることを確認した。即ち、卵巣癌細胞が低酸素刺激におかれた際に、miR-199a-3pの発現が抑制され、その結果、c-Metの発現が増強し、癌の腹膜播種がさらに促進されることをIn vitro の実験系で証明した。続いて、卵巣癌細胞にmiR-199a-3pを発現するLentivirus Vector を米国Biosettia 社より購入し、細胞株SKOV3 に安定導入して、SKOV3ip1-miR-199a-3p発現株を作成した。この細胞株を雌の免疫不全マウスに腹腔内投与し、マウス腹腔内で腹膜播種を形成させた。5週間後にマウスを安楽死させ腫瘍形成重量、播種数をControl Vectorを導入した細胞と比較検討したところ、miR-199a-3p発現細胞株において、腫瘍重量、播種数ともに著減していることが判明した。その播種された腫瘍よりパラフィン切片を作成し、免疫組織染色を行い、miR-199a-3p発現細胞よりの腫瘍ではc-Met の発現は抑制されていることを確認した。即ち、低分子関連マイクロRNA、miR-199a-3pがc-Metの発現を抑制することにより、卵巣癌の腹膜播種を抑制することを証明した。
すべて 2013
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Am J Pathol
巻: 182 ページ: 1876-89
10.1016/j.ajpath.2013.01.039.