研究課題
オンコリティックウイルスは陰性荷電(ポリアニオン)であるため、これを被覆加工する陽性荷電(ポリカチオン)について検討を行った。陽性荷電のリポソーム、キトサン、ポリエチレンイミン(PEI)を比較検討すると、生体由来物質のキトサンはロット毎の荷電にばらつきがあり、荷電の強度も弱いことがわかった。リポソームとPEIを比べるとリポソームは2週間以上の4℃の保存で劣化し、不安定であることが明らかとなった。PEIは3社の中で最も安定した陽性荷電を有し、再現性も高かったが、毒性も強かった。このため、必要最少量のPEIを用いることとした。陰性荷電物質については、腫瘍にその受容体のCD44が多量発現し、既に医療用薬品として市販化され手に入りやすいヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸の比較検討を行った。ヒアルロン酸は、粘稠性が高く加工に難点があり、分子量を低くしてもその粘稠性は多少の低下が認められたが、やはり加工に難点があった。腫瘍特異性においても検討したところ、ヒアルロン酸よりコンドロイチン硫酸の方が腫瘍特異性が高く、コンドロイチン硫酸の中でもサメが減量の分子量10万以下のものが最も腫瘍特異性が高かった。また、陽性荷電のポリエチレンイミン(PEI)の安定性をζ電位測定(ゼータサイザーナノ、Malvern)により検討すると、4℃で1週間以上保存しておくと低下することが明らかとなった。このため、PEIは新たに作製して1週間以内のものを使用することとした。1x1010PFUのオンコリティックウイルスAdE3-midkine(1元)にPEI(2元)さらにコンドロイチン硫酸(3元)加工し、同様に多重加工して最外層を陰性荷電のコンドロイチン硫酸とした。抗体存在下でアデノウイルスーGFPを用いた発現実験をすると、抗体存在下でもポリマー加工で遺伝子発現が認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
アデノウイルスは、抗体存在下では全く感染しないことがアデノウイルスを用いた遺伝子治療の最大の問題点とされていたが、PEIとコンドロイチン硫酸を用いると、腫瘍特異的に抗体存在下においても遺伝子発現することが明らかとなった。ζ電位を用いた測定においてもPEIにて+20mVの陽性荷電が得られ、さらにコンドロイチン硫酸加工により-20mVの陰性荷電が得られていることが確認され、十分なポリマー加工が行われていることが確認された。また、電子顕微鏡を用いた形態的な検討においてもポリマー加工によりアデノウイルスの表面に球状の層によりアデノウイルスが被覆加工されていることも確認された。
今回の研究は、抗体存在下におけるポリマー加工したアデノウイルスの感染能力のみを検討したものであるが、今後、in vitroにおいて抗体存在下における腫瘍特異的な抗腫瘍効果の検討、その際に、より抗体による感染抑制を強力に克服できるかについて、ポリマー加工をどの程度の層まで行えば良いか検討をする必要がある。また、さらにはsyngeneic mouse modelを用いた卵巣癌の皮下腫瘍モデル、腹腔内播種性モデルにおいてアデノウイルスで事前免疫した後に抗体存在下においても抗腫瘍効果を示すか検討する必要がある。
主としてin vitroおよびin vivoにおけるPEIとコンドロイチン硫酸を用いたオンコリティックウイルスのポリマー加工において抗腫瘍効果を検討するため、研究費の使用を計画している。そのために、培養用ディッシュ、培養液、マウス等の購入に研究費を充てる計画である。また、他施設との共同研究により新たな地券をうる必要があり、こうした研究打ち合わせについても仕様を検討している。
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Journal of Gene Medicine
巻: 13 ページ: 353-361
Oncology Reports
巻: 24 ページ: 795-802