研究課題
オンコリティックウイルスは陰性荷電(ポリアニオン)であるため、これを被覆加工する陽性荷電のポリエチレンイミン(PEI)を用い、陰性荷電物質については腫瘍にその受容体のCD44が多量発現するコンドロイチン硫酸を用いた。加工に際しては、その荷電状態をζ電位測定(ゼータサイザーナノ、Malvern)により検討した。1x10e10PFUのオンコリティックウイルスAdE3-midkine(1元)にPEI(2元)さらにコンドロイチン硫酸(3元)加工し、以後、同様に多重加工した。2 x 10e10 pfuのアデノウイルスを5%グルコースで希釈し140マイクロリットルとし、さらに、PEIを5% Glucoseで溶解し、5mg/mlを20マイクロリットル(PEI:100マイクログラム)加え、さらにコンドロイチン硫酸を5% Glucoseで溶解し、5 mg/mlを40マイクロリットル(コンドロイチン硫酸:200マイクログラム)加え、以後同様にそれぞれを交互に加えた。陽性荷電のPEIを加えた後の荷電の実測値は、20mV~30mVであり、陰性荷電のコンドロイチン硫酸を加工した後の荷電の実測値は-20~-40mVであった。PEIが最外層である場合は、陽性荷電となるため、赤血球を凝集し、コンドロイチン硫酸が最外層である場合は、陰性荷電となるため、赤血球の凝集は来さなかった。このため、最外層を陰性荷電のコンドロイチン硫酸とした。抗体存在下でアデノウイルス-LacZを用いた発現実験をすると、抗体存在下でもポリマー加工で遺伝子発現が認められた。抗アデノウイルス抗体存在下で抗腫瘍効果を検討すると、9元目以降において抗腫瘍効果の増大が認められた。
2: おおむね順調に進展している
Ad-LacZと抗アデノウイルス抗体との中和実験において、Ad-LacZ 単独(1元)であると抗体により完全に遺伝子の発現が認められなかったが、PEI(2元)さらにコンドロイチン硫酸(3元)加工によりLacZ遺伝子の発現の回復が認められた。これにより、PEIおよびコンドロイチン硫酸加工により抗アデノウイルス抗体による感染抑制を克服することが明らかとなった。次に抗腫瘍効果について検討を行った。オンコリティックアデノウイルスAdE3-midkineは、x600の抗アデノウイルス抗体を加えることにより、完全に抗腫瘍効果を消失することが明らかとなった。しかしながら、PEIおよびコンドロイチン硫酸を加えることにより9元以上においてin vitroにおける抗腫瘍効果が認められた。以上のことにより、アデノウイルスは、抗体存在下では全く感染しないことがアデノウイルスを用いた遺伝子治療の最大の問題点とされていたが、非増殖性の発現ベクターAd-LacZを用いてPEIとコンドロイチン硫酸で加工すると、抗体存在下においても遺伝子発現することが明らかとなった。さらに、midkineプロモーターを導入した腫瘍特異的なオンコリティックアデノウイルスAdE3-midkineを用いて実験を行うと、抗体存在下においても、PEIとコンドロイチン硫酸によるポリマー加工により、抗腫瘍効果が回復することが明らかとなった。
今回の研究は、抗体存在下におけるポリマー加工したアデノウイルスの感染能力および抗腫瘍効果を9元まで検討したものであるが、今後、さらに加工を進めることにより、in vitroにおいて抗体存在下における腫瘍特異的な抗腫瘍効果の検討、その際に、より抗体による感染抑制を強力に克服できるかについて、ポリマー加工をどの程度の層まで行えば最良の抗腫瘍効果が得られるか、検討をする必要がある。さらにはsyngeneic mouse modelを用いた卵巣癌の皮下腫瘍モデル、腹腔内播種性モデルにおいてアデノウイルスで事前免疫した後に抗体存在下においても抗腫瘍効果を示すか検討する必要がある。また、ポリマー加工が良好に行われているか、電子顕微鏡的検討を行い、さらに、ポリマー多重加工技術を高める必要がある。
主としてin vitroおよびin vivoにおけるPEIとコンドロイチン硫酸を用いたオンコリティックウイルスのポリマー加工において抗腫瘍効果さらには電子顕微鏡的検討による加工精度を検討するために、研究費の使用を計画している。そのために、培養用ディッシュ、培養液、マウス等の購入に研究費を充てる計画である。また、他施設との共同研究により新たな知見を得て、これら技術の革新を図る必要があり、こうした研究打ち合わせについても使用を検討している。
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