研究概要 |
本研究では、癌間質の由来の一つとされる骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に着目し、間質細胞と免疫細胞、癌細胞の三者の相互作用を分子・細胞レベルで解析し、癌微少環境における間質細胞の意義を腫瘍免疫学的見地から解明することを目的とする。MSCとしては、PDGFR+, Sca1+細胞(PαS細胞)を用いて解析を行った。本年度は、昨年度樹立したマウスモデルを用いて、腫瘍浸潤MSC (Tumor infiltrating PαS (Ti-PαS))を単離し解析した。癌細胞をdsRED遺伝子で蛍光で標識し、この腫瘍をGFPマウスに皮下移植すると、腫瘍組織内より、GFP+, dsRED-, CD45-, TER119-, PDGFR+, Sca1+細胞をとしてTi-PαSが単離できた。GFP+, dsRED-, CD45-, TER119-で、PDGFR+, Sca1+以外の分画をTi-nonPαSとしてTi-PαSと性質を比較した。Ti-PαSはTi-nonPαSに比べ、増殖が速く、一細胞からのクローン樹立効率が、有意に優っていた。また、培養をしていない新鮮な状態での、両者の遺伝子発現をRT-PCRで解析した。その結果、いくつかの免疫抑制因子の発現がTi-PαSでTi-nonPαSに比べ数倍高発現していることが分かった。以上より、がん組織の間質にあるPαS細胞は、免疫抑制分子の産生を通して、免疫抑制的な腫瘍微小環境の構築に関与している可能性が示唆された。また、本マウスモデルにおいて、腫瘍の所属リンパ節でもPαS細胞の存在が確認できたことから、PαS細胞はがん免疫応答を惹起するのに重要なセンチネルリンパ節においても何らかの免疫抑制を誘導している可能性が示唆された。
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