本研究は難治性卵巣癌に対する新規治療戦略として、HB-EGFを標的とした治療法の意義を明らかにすることで、その選択的阻害薬の開発に寄与するものである。前年度までになされてきた、DNAマイクロアレイを基にした遺伝子検索により、高HB-EGF環境での発現変動およびコピー数の変化のある遺伝子の候補を同定してきた。中でも血管新生に関わる遺伝子であるVEGFAやANGPTL4はHB-EGFにより発現が制御されており、増腫瘍能や浸潤能などの表現型を明らかにすることでこれらの分子が癌増殖に関わることを同定した。また、転写後調節に関わるexon junction complex の遺伝子やいくつかの代謝に関わる転写因子をHB-EGFを制御する因子として同定した。HB-EGF標的治療における血清中マイクロRNAのバイオマーカーとしての意義について検討を行った。in vivo モデルでの血清中マイクロRNAの網羅的検索では、高HB-EGF環境で発現が亢進するマイクロRNAをいくつか同定した。特にmiR-92とmiR-23aは癌において癌の浸潤に関わる分子であると報告されており、機能解析を進めて行く必要がある。また、HB-EGF選択的阻害薬であるCRM197を用いた臨床試験で、血清中HB-EGF濃度が低下した症例において、治療前後で変動した血清中マイクロRNAについて検討を行ったところ、miR-1281、miR-92a、miR-486-5pが挙げられた。これらに関しても機能解析や今後の臨床試験症例での解析を進める必要がある。これらの結果により得られた遺伝子群はHB-EGFの発現や癌の表現型に関わっており、これらを用いたCRM197感受性を予測する新たな診断方法の確立を目指す。
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