研究課題/領域番号 |
23592487
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
玉江 昭裕 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50529881)
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研究分担者 |
大橋 充 九州大学, 大学病院, その他 (70529883)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アブミ骨振動 / 音分別システム / 中耳伝音系 / 伝音難聴評価 |
研究概要 |
ハイスピードカメラによるアブミ骨振動の撮像と解析を目的とした本研究において、平成23年度は以下の研究成果を得た(1)モルモットに対して実際の音刺激を与えた際のアブミ骨振動を、高性能ハイスピードカメラを用いて撮像することに成功した。(2)この音刺激の周波数と音圧をさまざまに変化することでアブミ骨振動がどのように変化するかを解析した結果、アブミ骨の振動は刺激音の周波数に全く一致した周波数で上下運動を繰り返していることを明らかにした。さらには音圧を増減させると振動周波数は全く変化しないまま、その振幅も同様に増減することが分かった。これまで動物の耳小骨が実際の音刺激によってどのように運動しているか実際の動画として撮像されたことはなかった。本年度の研究において初めて実際の動きをとらえることに成功した。またアブミ骨が音刺激と全く同じ周波数で振動し、刺激音圧によってその振幅を変化させるということが解明することができた。すなわち鼓膜からアブミ骨に至る中耳伝音系に周波数と音圧の分別システムが備わっていることが明らかとなった。(3)鼓膜に穿孔を作成することで、アブミ骨振動が減少すること、さらにはこの穿孔を薄い膜によって閉鎖することで振動が回復することも明らかにした。この際、振動周波数には影響は及ぼさず、振幅のみが変化した。この鼓膜穿孔は伝音難聴の動物モデルである。すなわちこれまで聴性脳幹反応といった内耳から中枢に至る機能を評価する検査法は存在したが、本実験系が伝音難聴の検査としての可能性も明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に研究成果が得られている。これまでに基礎となるアブミ骨振動測定系は確立することができた。さらに音刺激の周波数、音圧とアブミ骨振動との関係についても明らかになった。現在のところ計画から遅れているのは、生体における測定実験である。これまで得た結果はすべて断頭後迅速に測定をしたものである。生体で行えていない理由は、アブミ骨の観察の困難さにある。アブミ骨を他の中耳内耳構造を破壊せずに観察しようとする場合、かなり大きく後頭蓋を削開く必要がある。さらに後方から覗き込むようにスコープを配置する必要がある。そこで、頸部過伸展した状態で観察する必要がある。現状では削開など破壊的操作を加えている段階で出血等によって死亡する可能性が高いため、断頭した状態で行っている。今後、細径のファイバースコープや45度あるいは70度硬性鏡などを応用して、全身麻酔科の測定を行う事を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進のための計画は以下の通りである。(1)これまでの観察方法から、細径ファイバーや45度硬性内視鏡をカメラに接続して観察する方法に変更してゆく。そうすることで、耳骨包の開創を最小限にとどめてアブミ骨を観察することが可能になる。(2)全身麻酔器を導入して、モルモットの安定した持続的な鎮静を得る。ここに上述した観察の手法を組み合わせることで、生体におけるアブミ骨振動の撮像解析を行う。(3)平成23年度の研究で、アブミ骨の基本的な運動性質については明らかにされたが、あくまで単一周波数のTone burst音に限った結果である。実際には動物は和音やかなり変化する周波数の音を分別聴取している。そこで、刺激する音の周波数をスイープさせたり、特に重要な課題として和音での音刺激を与えた際にアブミ骨がどのように振動するかを測定してゆく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度における研究費の使用計画は以下のとおりである。次年度使用額1,513,345円に予定額500000円を加えて検討している。(1)新たな音源購入費;150万円上述したように今後の研究の課題として、和音あるいは周波数が変化する音に対してアブミ骨振動がどのように変化するかを解析する事があげられる。現在の音源は聴性脳幹反応を測定する機器の刺激系のみを応用している。この機器では刺激音のスイープや和音作成はできない。そこで、新たな音源装置の購入を検討している。(2)細径角度硬性内視鏡;50万円現在遅れている生体における測定を可能にするものとして、角度のついた極細硬性内視鏡を購入計画している。これによって頭蓋の開創が最小限にとどめることができるようになり、生体条件での観察測定が可能になると考えている。
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