研究概要 |
内耳培養細胞HEI-OC1に、Atg7 siRNAをエレクトロポレーション法にて遺伝子導入し、Atg7をノックダウン(KD)させることでオートファジー不全状態を作製した。Western blot法にて、オートファジー不全状態の内耳感覚細胞において、Keap1, Nrf2の発現は著しく増加したが、p62の発現は不変であった。免疫染色による共焦点レーザー顕微鏡下での観察では、Nrf2は核内に完全移行していることを確認した。酸化ストレス下でのAtg7 KD細胞では、Keap1, p62の発現は著しく増加したが、逆にNrf2は低下した。また、免疫染色にては、Keap1, p62が細胞内に蓄積したが、逆にNrf2は完全に消失したことを確認した。これは、オートファジー不全状態の内耳感覚細胞は、酸化ストレス下においてNrf2は全く機能しないことを示し、その結果として、酸化ストレスへの脆弱性が亢進する可能性を示唆している。また、p62, Nrf2, Keap1の分子間クロストークが内耳細胞死シグナル伝達において中心的な役割を果たしていることも示唆している。 また、理研より譲渡されたGFP-LC3レポーターマウスを用いて、内耳でのオートファジー誘導を可視化した。GFP-LC3の発現は外有毛細胞とらせん神経節細胞で活性化していた。この結果は、オートファジーは、外有毛細胞とらせん神経節細胞でのみ誘導される可能性があることを示している。また、Atg7を内耳特異的にノックアウトしたオートファジー欠損マウスを作製した。その結果、組織学的に、コルチ器ではAtg7の発現は消失していたが、神経節細胞ではAtg7の発現は残存していた。ABRにて、高音域に有意な聴力低下を確認した。この結果は、外有毛細胞において、オートファジーは、その維持に必要不可欠であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究成果である「酸化ストレス下での内耳感覚細胞において、オートファジー誘導は、細胞生存に中心的な役割を果たす。」という結果と、「p62を介してオートファジーとKeap1/Nrf2がリンクし、内耳感覚細胞を酸化ストレスから防御している」という結果を基盤にして研究を進行させた。Atg7 KD HEI-OC1細胞では、無処理状態では、Nrf2は細胞を防御するため核内移行するものの、酸化ストレス下では、免疫組織学的にはNrf2は核内から消失し、逆にKea1とp62は細胞内に蓄積し、蛋白レベルでは、Nrf2は低下し、Keap1とp62は増加することを確認した。この結果は、オートファジーは、p62を介してKeap1/Nrf2シグナルと密接に関与し、酸化ストレスに対する内耳感覚細胞内防御機構の中心的役割を果たしていることを示唆する全く新しい知見である。さらに、p62, Keap1, Nrf2のクロストークは、細胞レベルでは内耳感覚細胞死のマーカーに、臨床的には感音性難聴のバイオマーカーになる可能性もあると考えている。 一方で、in vivo studyにも取り組み、オートファジーモニタリングマーカーであるGFP-LC3レポーターマウスを用いて、外有毛細胞とらせん神経節細胞にオートファジーが誘導される可能性を確認し、内耳特異的オートファジー欠損マウスを作製し、高音域を中心とする進行性感音難聴を示した。この結果も、全く新しい知見であり、老人性難聴を含む高音障害型感音難聴の解明に寄与すると考える。
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今後の研究の推進方策 |
in vitro studyにおいては、p62, Keap1, Nrf2クロストークの機能解析を進める。まず、p62 siRNA, Keap1 siRNA, Nrf2 siRNAをHEI-OC1に遺伝子導入し、Western blot法にて、p62, Keap1, Nrf2の発現を確認し、共焦点レーザー顕微鏡により免疫組織学的にも、その影響を確認する。また、p62発現ベクターを遺伝子導入し、Keap1, Nrf2への影響を、同様に蛋白レベルと免疫組織学的に確認する。また、各々の分子間相互作用を確認するため、p62, Keap1, Nrf2間の免疫沈降法を行う。一方で、オートファジー誘導剤であるラパマイシンの効果に関する分子メカニズムを解明することを目的として、mTORC1とmTORC2カスケード関連遺伝子であるp70S6K, 4EBP1, AKTとそのリン酸化状態をみるため、p-p70S6K, p-4EBP1, p-AKTの発現について、HEI-OC1細胞をH2O2処理だけ、H2O2とラパマイシンで処理したものとで比較検討を行う。Atg7 KD細胞、p62 KD 細胞、Keap1 KD細胞、Nrf2 KD細胞をTEMによって形態観察を行う。 内耳特異的オートファジー欠損マウスとGFP-LC3レポーターマウスを用いたin vivo studyにおいては、平成24年度のin vitro studyの結果を基盤として、内耳特異的オートファジー欠損マウスのコルチ器におけるsurface preparationを行い、酸化ストレスマーカーSOD1,2,3の発現とp62, Keap1, Nrf2の発現に関して免疫組織学的検討を行う。内耳特異的オートファジー欠損マウスは、進行性高音障害型感音難聴を示すため、老化マーカーであるβ-galによる染色も行い、老化の観点からも検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
HEI-OC1細胞を用いたin vitro studyでのオートファジー不全状態におけるp62, Keap1, Nrf2のクロストークに関する研究を、臨床的な感音性難聴のマーカーに近づけるtranslational researchを最終目的として、内耳特異的オートファジー欠損マウスを用いたin vivo studyも同時進行で行う予定である。 抗体費用(p62:54000円x3本、Keap1:50000円x3本、Nrf2:56000円x3本、Atg7:58000円x3本、p70S6K:46000円x2本, 4EBP1:48000円x2本, AKT:50000円x2本、p-p70S6K: 58000円x2本、p-4EBP1: 58000円x2本、p-AKT:58000円x2本、LAMP2:52000円x1本、cleaved PARP: 58000円X1本、Bcl-2:46000円x1本、Becrin1: 48000円x1本)、試薬費(mKeima: 58000円Atg7 siRNA:80000円、p62 siRNA:80000円、Keap1 siRNA: 80000円、Nrf2 siRNA: 80000円)、薬剤費(ラパマイシン:58000円x5本、3MA: 58000円x3本)、Western blot関連試薬:80000円x3を購入予定である。 さらに、本研究の成果を国内外に示すために、国内、国外への渡航費用として使用する予定である。 未使用額の発生は効率的な物品調達を行なった結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。
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