研究課題
今までヒト耳小骨における破骨細胞に関する解析はほとんどなかった。これまでさまざまなノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスで得られたデータに基づき、ヒト耳小骨における解析を行った。ご遺体から得られた耳小骨を正常コントロールとして、真珠腫性中耳炎、耳硬化症患者の手術で摘出された耳小骨を用いて、耳小骨内の破骨細胞の発現について検討を行った。いずれも慶応義塾大学医学部倫理委員会の承認を得た上で、当該患者に同意を得て行われた。カテプシンKと呼ばれる破骨細胞から特異的に出される酵素に対する抗体を用いて破骨細胞の存在を確認した。真珠腫性中耳炎のキヌタ骨、ツチ骨、耳硬化症のアブミ骨では健常のご遺体の耳小骨と比較してカテプシンK免疫複合体が確認され、統計学的に有意に破骨細胞の増加を認めることを確認した。従来まで耳小骨が溶解することはわかっていたが、破骨細胞の有無を患者献体で観察することは渉猟しうる限りではなかった。これらの結果は、上記疾患において破骨細胞数を抑制させることで難聴を予防することが可能であることを示唆するものである。また、本業績は2012年の国際真珠腫学会のシンポジウムで報告した。さらに中耳炎と骨吸収に関する基礎研究のセッションで論文が引用され、本業績により中耳炎シンポジウム編集委員にも選ばれ、アメリカ耳鼻咽喉科医師学会誌であるOtolaryngology Head and Neck Surgery誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
研究申請書に書かれた通りに進行している。破骨細胞におけるマーカーの検索には時間と研究費が予想以上にかかってしまった。しかし、試行錯誤の結果、耳小骨においてカテプシンKが破骨細胞を反映するマーカーとして実用的であることが解明できたことは大きな意義がある。
ヒト献体数を積み重ねて検討していきたい。ただし、ヒト症例では健常(対照群)の耳小骨が入手しにくいことがあり、再度動物実験で検証した方が良いと考えている。マウス中耳炎モデルでもカテプシンK定量を行って行きたい。
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果である。翌年度の使用として、マウス耳小骨と中耳、内耳骨包の発生を解明するために、マイクロCTを撮影・解析する必要があり、その費用などに充てたいと考えている。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Otolaryngol Head Neck Surg.
巻: 148(4 Suppl): ページ: E37-51
doi:10.1177/0194599813476257
Middle Ear and Hearing 9thInternational Cholesteatoma and Ear Surgery Meeting
巻: proceeding ページ: 未定