研究実績の概要 |
慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎は、臨床上扱うことの多い疾患であるが、現在治療法は手術加療のみである。手術による合併症として、感音難聴、めまい、味覚障害、顔面神経麻痺等があり、手術には入院を要するため、より低侵襲な治療の開発が望まれる。 骨では、骨吸収と骨形成のバランスが保持されることにより、骨密度や形態が維持されている。骨吸収には破骨細胞が、骨形成には骨芽細胞が関与している。基礎研究から、耳小骨の骨リモデリングにおいても、破骨細胞は骨吸収に関与しており、骨吸収により耳小骨の連鎖が正常に保たれなくなることで伝音難聴をきたすことが解明されている。真珠腫性中耳炎では耳小骨をはじめ中耳の骨の溶解が起こり伝音難聴が起こるが、進行すれば内耳に病変が及び感音難聴を引き起こす恐れもある。耳硬化症では動物モデルを使って、アブミ骨底板の骨吸収により内耳骨包と癒着することを示した(Kanzaki S, Bone 2004)。これらの疾患では、骨吸収と骨形成のバランスが崩れていることが予想される。骨吸収が優位となっていることから、破骨細胞が増加していると考えられ、耳小骨における破骨細胞の局在や数、制御する因子を調べることにより、病態が明らかになると考えられる。われわれは倫理委員会の承認のもと、真珠腫性中耳炎あるいは耳硬化症アブミ骨患者の耳小骨を摘出し、病理学教室により切片を作成し、染色を行い破骨細胞を示すカテプシンK染色細胞をカウントした。中耳炎,耳硬化症の無いことを確認されたご遺体から摘出された耳小骨(キヌタ骨とアブミ骨)のカテプシンK細胞数は、耳硬化症のアブミ骨、真珠腫性中耳炎のキヌタ骨と比較して増加していた。このことから破骨細胞数が増加していることが臨床例でも示唆される。 また、耳小骨の破骨細胞を蛍光で示すマウスを入手し、発達の過程における破骨細胞数を検討しているところであるが、生後21日では破骨細胞が認められなかった。
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