研究課題/領域番号 |
23592496
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
村田 潤子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (80332740)
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研究分担者 |
木村 透 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (50280962)
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キーワード | PTEN / PI3K/Aktシグナル経路 / PTEN cko マウス / 蝸牛 / 内耳発生 / convergent extension |
研究概要 |
我々は胎生期および生直後のマウスにおいて、リン酸化Aktと PI3/Aktシグナル伝達系に拮抗するPTENについて発現に関して既に検討し、胎生15.5日齢(E15.5)では感覚上皮予定領域でリン酸化Akt(pAkt)の発現がやや低下しその部分にPTENの発現が見られるようになってきていること、およびE17.5では感覚上皮(コルチ器)全体でpAktの発現が低下し、PTENは逆に内・外有毛細胞の細胞質に強く発現していることを確認した。 次に我々は内耳特異的にPTENをノックアウトしたコンディショナルノックアウトマウスの系(PTEN cko マウス)を作成した。内耳特異的にPTENが欠損しているPTEN CKO マウスではPTENの欠損によって内耳において内在性PI3K/Aktシグナル経路が活性化された状態にあると考えられる。平成24年度はPTEN ckoマウスの内耳の解析を継続し、特に感覚上皮予定領域外で細胞増殖がCKOマウスではWT(野生型)に比して遅くまで継続し、内耳全体がWTより巨大化していることを明らかにした。一方感覚上皮予定領域の決定にはPTENの欠損は影響していないにもかかわらず、感覚細胞である有毛細胞およびその周囲の支持細胞の分化はより早い時期に既に観察されていて感覚上皮予定領域の成熟が加速されていることを見出した。加えてCKOマウスでは外有毛細胞が部分的に4列となり、内有毛細胞に関してもところどころで余剰細胞が見られた。しかし予想に反して蝸牛管の長さはCKOマウスの方がWTに比して短く、PTENの欠損により蝸牛管発生におけるconvergent extensionに障害が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の当初の計画では平成24年度はPTEN cko マウスでの活性化Notchの発現を検討することでPTENの欠損、すなわち内在性のPI3K/Aktシグナル経路の活性化がNotchシグナル伝達系の活性化に与える影響についても調べることを計画していた.これに関しては活性化Notch およびNotchシグナル伝達系のエフェクターであるHes1の発現を調べることで内耳発生においてはPTEN欠損のNotch活性化に与える明らかな影響は観察されず、同じ感覚器である網膜の発生における両者の関係とは異なっている可能性が考察された。 さらに木村らとの共同研究により4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の投与によって全身でAktシグナルをコンディショナルに活性化できるAkt-Merマウスの胎生期内耳の器官培養系の確立し、この系で4-OHTを添加することでPI3K/Aktシグナル経路を内耳で人為的に活性化させた場合について検討することを予定していたが、PTEN ckoマウスの解析がPTENの欠損が内耳発生におけるconvergent extensionを障害することが観察されたため、 このckoマウスの系をさらに詳細に解析し、convergent extensionに関与するような他のシグナル伝達系との相互作用についても検討していくことが必要と考えるに至ったため、あらためてこの方向でのAkt-Merマウスの胎生期内耳の器官培養系を利用した新しい実験計画を立案し、今後具体化していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は現在解析中の内耳特異的PTEN ckoマウスでPCP(平面細胞極性:Hair bundleの向きの統一性)とCE(収斂伸長:感覚上皮のパターン形成を伴った蝸牛管の伸展)について評価し、関連した因子の可能性としてRhoファミリー蛋白の活性化についてもCKOマウスとコントロールマウスの間で比較することを予定している。またAkt-Merマウスによる器官培養系を確立しon-off 双方向でPCP、CEにおける表現型が観察されないか検討予定である。 1. PTEN ckoマウスの解析 PTEN ckoマウスにおいてCKOマウスでは細胞配列の乱れや蝸牛管の短小化が観察されたが、Hair bundleの向きには明らかな異常が見られなかったので、PTENの欠損によってAkt以外にもRac1、RohA1などが活性化され、結果としてCEに異常が見られていることを予測した。今後は活性化の程度を測定しCKOにおいて上昇を確認し、CEについても最終的な蝸牛管の長さ以外に中途過程(E14.5頃)の上皮における頂底極性を数理モデルによって測定することでより正確な評価を目指している。 2. Akt-Merマウスを用いたPI3K/Aktシグナル経路自体のCE、PCPへの関与の可能性を検討 連携研究者木村が所属する阪大病因解析学講座(仲野徹教授)より新たにAkt-Merマウスの分与を受け導入し.マウス内耳の培養系を確立する。4OHTで処理することで活性化Aktを強制発現し、一方PI3K inhibitor処理によって内因性のPI3K/Aktシグナルを遮断し、PI3K/Aktシグナルについて胎生期蝸牛でのon/off双方向操作によるPCP、CEへの影響を検討する。PTEN ckoマウスの解析の場合よりRhoファミリー蛋白活性化の影響を受けないでPI3K/Aktシグナル経路単独の関与を検討できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のようにPTEN ckoマウスの継代・解析を続行するため動物の飼育やTypingに関連した経費として研究費より支出する。また解析に必要な最低限の抗体などの購入、及びRac1、Cdc42、およびRhoAの内耳での活性化を測定する試薬やキットの購入にも研究費を使用する必要がある。さらにAkt-Merマウスの導入と飼育に関する費用、および器官培養系を確立し実験を続けるための培地や消耗品の購入に研究費を充てる予定である。
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