癒着性中耳炎もしくは中耳真珠腫の病態を解明するため、in situ tissue engineeringを利用して人工鼓膜および人工中耳粘膜を作製し、in vitroでの研究に応用することを試みてきた。実際にウサギより採取した中耳粘膜を in vitroにて粘膜上皮細胞とfibroblastに分離培養し、これらの培養細胞を用いて単層の粘膜上皮ならびにコラーゲン内にfibroblastを混入させた粘膜下組織を作製し、上皮層および粘膜下層の2層からなる人工中耳粘膜シートを作製した。そして外耳道皮膚より採取したkeratinocyteを重層化させ、ECMを基底部に有する鼓膜上皮層にあたる鼓膜上皮シートの作製を行った。人工中耳粘膜シートおよび鼓膜上皮シートともに光学的顕微鏡での組織構築が確認されており、電子顕微鏡下にも基底板の存在やtight junctionなどの細胞間接合の存在が確認された。また、免疫組織学的にinvolucrinおよびcaspase-14などの発現様式を検討したところ、正常の組織と同様に上皮の分化が行われており、PCNAおよびKi-67の発現からは上皮増殖能に異常がないことが判明した。この鼓膜上皮シートと中耳粘膜シートがECMを介し、表裏一体となるように融合させ、三次元人工鼓膜の作製を試みたが、この鼓膜上皮シートと中耳粘膜シートの融合が困難を極め、シートの解離や接合不全を来している。これを改良すべく、上皮細胞シートを重層化する技術を応用して、人工鼓膜としての組織構築の安定化への改良を現在も行っている状況にある。今後も人工鼓膜を安定した状態で作製したのち、各種サイトカインやケミカルメディエーターを作用させ、実験的に癒着性中耳炎の発症を誘導することを継続して行う。
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