研究課題/領域番号 |
23592522
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
室野 重之 金沢大学, 大学病院, 講師 (20345622)
|
キーワード | 上咽頭癌 / EBウイルス / LMP1 / 癌幹細胞 |
研究概要 |
前年度に続き、レトロウイルスによるLMP1発現ベクターおよびコントロールベクターを用いた。上咽頭細胞であるAd-AHにLMP1発現ベクターを導入することにより、LMP1がEMT(上皮間葉移行)を誘導した。LMP1発現細胞では転写因子Twistおよびsnailの発現が見られ、EMTにはこれらが関与していることがうかがわれた。 サイトケラチンは上皮細胞の分化度のマーカーとなりうるため、LMP1発現の有無によるサイトケラチンの発現を比較した。コントロールではCK14陰性、CK18陽性、CK19陰性であったが、LMP1形質導入ではCK14陽性、CK18ほぼ陰性、CK19陽性の結果であり、LMP1により上皮細胞が未分化状態へシフトしていることが示唆された。これはLMP1によりEMTが誘導されることを裏付けるものである。また、上咽頭癌の組織像において未分化癌が大半であることにも合致すると思われる。 ウェスタンブロットによりコントロールではABCG2陰性、Nanog陽性、Nestin陽性、Oct4陽性、KLF4弱陽性、c-Myc陰性であったが、LMP1発現細胞では、ABCG"陽性、Nanog弱陽性、Nestin陰性、Oct4陰性、KLF4陽性、c-Myc陽性と対照的な結果であった。これらの結果はRT-PCRによっても同様であった。したがって、LMP1発現細胞はcancer progenitor cell様の表現形式を有するものと思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度におおむね達成した、①EBV感染は上咽頭癌に特徴的な臨床的組織学的性質へ寄与する、②この現象はLMP1遺伝子により誘導されるEMTである、③LMP1は転写因子snail、Twistを活性化してEMTを誘導する、④その結果文化から脱分化へのshuttlingがおこりこの時系列をさかのぼった細胞が上咽頭癌幹細胞候補となる、について不足していた検証の追加を行った。しかし、⑤運動能亢進の評価、⑥Twistおよびsnailに対するsiRNAによる可逆性の評価、については未確認である。また、⑦Ad-AH細胞をSPとNSPにわけsphere形成および細胞増殖の観察、さらに⑧ヌードマウスへの皮下移植による造腫瘍能について未確認である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の第一のテーマであるLMP1による癌幹細胞形質の獲得の検証について、今年度までに達成できなかった課題について継続して研究を進める。LMP1発現細胞の運動能の亢進、 Twistおよびsnailに対するsiRNAによる可逆性の評価、SPとNSP細胞の細胞増殖おとびヌードマウスへの造腫瘍能の評価がこれにあたる。 さらに、本研究の第二のテーマである「LMP1によるActivation-induced cytidine(AID)活性化、EBNA1によるRecombination activation gear(RAG)活性化は、脱分化した上皮幹細胞もしくは前駆細胞の遺伝子変異を促進し、癌幹細胞生成促進的に働く」の検証を併施する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
siRNAによる実験のためのsiRNA作成費用を算定する。Ad-AH細胞のSPおよびNSPを分別するためのフローサイトメトリーの試薬購入の予算を算定する。ヌードマ数の購入・飼育にも予算を算定する。 LMP1によるAID活性化の検証はウェスタンブロットを中心に行うが、上咽頭癌組織におけるAIDの発現を免疫組織によっても検証する。EBNA1によるRAG1活性化の検証には、EBNA1発現ベクターの作成が必要である。フローサイトメトリーを含めた試薬購入のための予算を算定する。 癌幹細胞に関する研究は注目されてる領域であり、情報収集のための旅費等も算定する。 また、効率的な予算執行により端数が生じ、2,642円が未使用額となった。
|