研究課題/領域番号 |
23592523
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
近松 一朗 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30301378)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 頭頸部扁平上皮癌 / ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 |
研究概要 |
癌幹細胞は治療抵抗性と言われ、既存の抗がん剤や放射線治療が効きにくいと言われている。頭頸部扁平上皮癌においては、以前から我々も報告してきたが、CD44分子が癌幹細胞のマーカーの一つとされている。頭頸部扁平上皮癌細胞株をEGFとbFGF存在下に無血清培地で培養することによりCD44+細胞の比率が増加する培養系を用いて研究を進めた。7種類の頭頸部扁平上皮癌細胞株をEGF+bFGF添加無血清培地にて培養することにより4種類の細胞株が培養を継続可能であった。これらの細胞株はいずれもCD44+の発現が増強した。このうち、HSC-2とKUMA-1の2種類の細胞株を用いてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone Deacetylase Inhibitor; HDACi)の作用を検討した。HDACiはヒストンのアセチル化を標的としており、癌におけるエピジェネティクス制御異常の解除を目指した薬剤の一つである。HDACiは癌細胞に対して用量依存的に細胞傷害性を示すだけでなく、既に報告があるようにHDACiによる処理でアポトーシスの誘導や細胞周期の停止を認めた。興味深いのは癌幹細胞のマーカーであるCD44+の発現がHDACiで処理することにより両細胞株とも低下したことである。また、癌幹細胞マーカーの一つであり、抗がん剤耐性に関わる分子であるABCG2もKUMA-1において発現低下が認められた。さらにHSC-2においては幹細胞関連遺伝子であるNanog, Bmi-1, Oct-4の遺伝子発現の低下を認めた。このように、HDACiは癌幹細胞形質にも影響を与えることがわかってきた。現在は更にKUMA-1においてもHDACiによる幹細胞関連遺伝子の発現変化を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭頸部扁平上皮癌細胞株をEGF+bFGF添加無血清培地で培養する系によってCD44+細胞enrichな実験系を確立できた。この培養系を使って、HDACiの既知の作用(アポトーシス誘導や細胞周期の停止)について確認できるのみでなくHDACiの癌幹細胞形質に対する作用も少しづつ解析できている。
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今後の研究の推進方策 |
現在の実験系を使用して更に癌幹細胞形質に及ぼすHDACiの作用を解析していく。具体的には(1)幹細胞関連遺伝子発現の変化、(2)癌幹細胞の特質の一つである上皮間葉移行(epithelial-to-mesenchymal transition: EMT)に及ぼす変化、(3)immunomodulatory作用といった3つの項目についての検討を進めていく。また、頭頸部癌に使用されている既存の抗がん剤とHDACiの併用効果があるのかについて検討を始めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究のベースとなる細胞培養とフローサイトメトリー解析には引き続き研究費を要する。幹細胞関連遺伝子の変化をreal time PCRで解析し、EMTに関与するタンパク発現の変化をウエスタンブロットにて解析する。またimmunomodulation作用についてはフローサイトメトリーやELISAを用いて解析する。これらの実験を行うために研究費を要する。更に、抗がん剤とHDACiの併用効果についてのin vitroでのアッセイ系確立のために新しく細胞培養の研究費が必要となる。なお、平成23年度に行ったCD44発現変化の実験の結果、さらに検討を行なう必要が生じ、その後行う予定であったEMTの実験を24年度に行う計画に変更したため、次年度に使用予定の研究費が生じた。
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