研究概要 |
癌幹細胞は治療抵抗性といわれ、既存の抗がん剤や放射線治療が効きにくいとされている。頭頸部扁平上皮癌においてはCD44分子が癌幹細胞のマーカーの一つとされているが、我々は無血清培地にEGFとbFGFを添加してCD44+細胞を増殖させた扁平上皮癌細胞株を用いて実験を進めた。昨年までの実験でHSC-2とKUMA-1の2種類の細胞株に対するヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Histone Deacetylase Inhibitor; HDACi)の作用を検討したところ、CD44やABCG2といったマーカー分子の低下、幹細胞関連遺伝子としてBmi1, Nanog, Notch, Oct-4の発現が低下することを明らかにした。これらの発現低下は我々の濃度設定では顕著ではなかったが、複数の関連遺伝子の抑制により、その相互作用によって癌幹細胞としての特質は変化するのではないかと思われた。 今回は更にHDACiを作用させることによりtumor sphereの形成能の低下を認めた。また癌幹細胞の特徴である上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition: EMT)について検討したところ、HDACiによる処理によってEMT関連分子であるE-cadherinの発現が増強していた。このことはHDACiがEMT抑制に作用することを示唆する。同時に調べたEMTの誘導サイトカインであるTGF-betaの発現が低下していたことも、HDACiのEMT抑制効果を支持するものである。 このように癌幹細胞形質を抑制できるHDACiは従来の抗がん剤とその作用機序が異なる。それゆえ、既存の抗がん剤との併用効果が期待できると思われる。 現在、頭頸部扁平上皮癌で臨床的に用いられるTaxol, CDDP, 5FUなどとの相乗効果について検討を行なっている。
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