研究課題/領域番号 |
23592533
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
倉富 勇一郎 佐賀大学, 医学部, 准教授 (30225247)
|
研究分担者 |
佐藤 慎太郎 佐賀大学, 医学部, 講師 (50304910)
門司 幹男 佐賀大学, 医学部, 助教 (90380782)
|
キーワード | 舌癌 / 上皮-間葉系移行 / 浸潤 / 扁桃癌 / 自然免疫 |
研究概要 |
平成24年度に手術切除した8例のヒト舌癌組織を用いて、上皮-間葉系移行に関与するラミニンγ2鎖、E-カドヘリン、Snailの発現を免疫組織学的に検討した。ただし舌癌症例はすべて頸部リンパ節転移を伴わず癌細胞同士が接着した胞巣性増殖を示すタイプであったため、同一症例内で胞巣性増殖から分散性浸潤に移行するタイプは観察されず、舌癌が浸潤能を強める際に上皮-間葉系移行が生じているかどうかの確認は行えなかった。 本研究は舌癌の浸潤・転移のメカニズムを解明することが目的である。そこで本研究に並行して舌癌の浸潤に対する免疫応答について、扁桃癌を対象として検討した。原発巣限局型(T1,T2)舌癌と原発巣限局型(T1,T2)扁桃癌における自然免疫系細胞(Natural Killer (NK)細胞、マクロファージ)の癌組織への浸潤密度を、免疫組織学的に調べたところ、次のような興味深い結果が得られた。①原発巣限局型扁桃癌では舌癌に比べ、癌細胞周囲に有意に多数のNK細胞やマクロファージの浸潤がみられた。②原発巣限局型扁桃癌では舌癌に比べ、有意に高頻度にマクロファージによる癌細胞の貪食像が観察された。 以上から、原発巣限局型扁桃癌では舌癌に比べ強い自然免疫応答がみられていることが判明した。扁桃癌では原発巣が限局し微小であるのにかかわらず(T1,2)頸部リンパ節転移を伴うことがしばしば観察される。こうした扁桃癌の生物学的特徴に、扁桃組織における自然免疫応答が関与している可能性が示唆された。一方で舌癌の増殖、浸潤に対する自然免疫応答は弱いことも示唆された。以上の結果を米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会にて報告するとともに、Eur Arch Otorhinolaryngol誌に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、舌癌が浸潤能を強める際に上皮-間葉系移行が生じているかどうかについての、明らかな結果を得ることはできなかった。ただし、舌癌、扁桃癌の増殖、浸潤における免疫応答に関して、扁桃癌では強い自然免疫応答がみられることで原発巣が限局型になる可能性が示唆され、一方で舌癌ではこうした強い自然免疫応答は観察されないという興味深い結果が得られた。以上のことから研究はおおむね順調に進展しているとした。
|
今後の研究の推進方策 |
舌癌が胞巣性増殖から分散性浸潤へと浸潤能を強める際に上皮-間葉系移行が生じているかどうかについては、過去の切除舌癌組織のパラフィンブロックを用いて、抗体や染色条件等をさらに改善し、免疫組織学的な検討を継続する。 本研究の当初は培養細胞を用いてin vitroで 癌細胞の浸潤能の変化を観察する予定であったが、平成24年度に舌癌、扁桃癌に対する自然免疫応答について前述のような興味深い結果が得られた。そのため今後は、舌癌、扁桃癌の増殖、浸潤に対する自然免疫、獲得免疫応答や、これに伴う脈管新生とリンパ節転移との関連についての研究を、免疫組織学的手法を中心として展開していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
物品費は主に免疫染色に必要な抗体、試薬等の購入費に充てる予定である。 その他は、研究成果発表のための国内、国際学会の旅費、および論文校正、投稿の費用、研究成果報告書の作成費用を予定している。
|