研究概要 |
発声の聴覚フィードバック(帰還)による制御の特性を求める方法として,閉ループで測定すると,最も早い潜時の応答以外は解析することが困難なため,ステップ刺激を開ループで聴覚に加え,音声の応答を求める方法を採用した。 音声基本周波数F0の聴覚帰還応答について調べると,平均では刺激を補償するような応答が見られた。主成分分析を用いて解析すると,F0応答は変化の早い,中間,遅いの3成分に分かれ,音声への注意によって,主に遅い方の成分の利得が減弱ないて反転した(OkazakiらJASA, 2014, 136: 334-340)。データを詳細に見ると男女差があり,また,一部の吃音者では制御特性が異なっているようであった。男女差については,F0が高いことによる影響もあると考えられる。 聴取する音声のホルマントに周波数変調を掛けて聴覚帰還応答の特性を測定する実験では,応答が出る割合が少ないという問題があったため,方法を見直した。シミュレーション波形を合成して分析したところ,一般的なホルマント分析方法であるLPC分析では,第2ホルマントF2を第1ホルマントF1と独立に分析することが困難で,検出したい周波数程度の変化が,F1を変化させただけでもF2に出てしまうことが判明した。F2の変調がF1の分析結果及ぼす影響は,F1からF2への影響ほどは大きくはなかった。そのため,F1の応答のみを測定することとした。その結果、F1のステップ刺激に対して、発声したF1が同じ方向に動く被験者と、逆方向に動く被験者がいることが分かった。 fMRIで単語発話時の脳機能を測定してきたが,近赤外分光法NIRSによって同様の実験ができるようにした。これにより,単語を読む部分と発話する部分を分離して記録することができるようになる。吃音者では聴覚野の活動低下や,Broca野,運動前野が非吃音者と異なるという結果が得られた。
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