研究課題/領域番号 |
23592544
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
山下 拓 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院, 講師 (00296683)
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研究分担者 |
荒木 幸仁 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院, 講師 (70317220)
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キーワード | DNA修復因子 / ウイルスベクター / 遺伝子治療 |
研究概要 |
本年度はまず2本鎖DNA切断修復に関わる蛋白NBS1の変異遺伝子(mNBS1)を組み込んだウイルスベクター(Ad-NBS1)のヒト頭頸部癌細胞株に対する放射線増感効果を検討した。細胞増殖に関してはWST-8アッセイを用いて検討を行った。X線放射線照射装置で2Gy連日5日間照射および8Gy単独照射のいずれかとAd-NBS1との併用療法を、放射線単独および放射線+コントロールベクター(Ad-GFP)の双方と比較したがいずれも明らかな放射線増感効果を認めなかった。以上より変異NBS1遺伝子導入は放射線増感作用をもたないと判断された。 従って以後は前年度にすでに証明されたAd-NBS1のシスプラチン増感効果をさらに増強する治療戦略を考え実験を行った。具体的には以下の如くである。シスプラチンはまず腫瘍細胞において1本鎖DNA損傷を引き起こすことが知られている。この1本鎖DNA損傷が修復されなければ、細胞分裂時に2本鎖DNA切断という細胞致死的なDNA損傷を引き起こす。そこで2本鎖DNA修復に関わるNBS1の変異遺伝子導入に加えPARP-1という1本鎖DNA修復酵素の阻害剤を用いてin vitroにおいてヒト頭頸部扁平上皮癌の増殖抑制効果をMTT assayで検討した。結果、予想通りシスプラチンに併用した際、変異型NBS-1導入単独に比べPARP阻害薬を併用した群において細胞増殖抑制効果が強く見られた。また、アルカリおよび中性条件下のコメットアッセイによりPARP阻害薬を併用した群では、変異NBS1導入のみの群と比較して1本鎖DNA損傷の量が増加しただけでなく2本鎖DNA損傷の量も有意に増加した。これはPARP阻害薬によりシスプラチンにより形成された1本鎖DNA損傷の修復が阻害されたままに残り、細胞分裂時により多くの2本鎖DNA損傷を生み出し細胞死へ導かれたと考えることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線治療が腫瘍細胞死へ導く主なメカニズムは、放射線により腫瘍細胞のDNA損傷、とくに2本鎖DNA切断を導くことであると理解されている。従って当初、2本鎖DNA切断修復を抑制する変異NBS1導入遺伝子治療が放射線治療の増感作用を示すと予想し、平成24年度はmNBS1搭載ウイルスベクターによる放射線増感治療実験をまずin vitroで行った。しかし、放射線1回8Gy照射、1回2Gy x 5日間照射のいずれにおいても、各種培養ヒト頭頸部扁平上皮癌細胞株に対する有意な放射線増感効果は証明されなかった。従って平成24年度後半は方針を転換し、平成23年度に既に証明されたmNBS1遺伝子治療のシスプラチン増感効果をさらに強める目的で、mNBS1遺伝子治療にPARP阻害薬を併用したDNAの1本鎖および2本鎖双方に対する修復阻害による効果を確かめる実験をまずin vitroで行った。MTT assayを用いて腫瘍増殖能に対する効果を検討した結果、予想通り、mNBS1およびPARP阻害薬の併用によって、さらに強いシスプラチン増感効果を示すことが証明できた。またアルカリおよび中性条件下コメットアッセイによって、mNBS1およびPARP阻害薬によりDNA障害修復抑制においても相乗効果を示すことが証明された。この成果は、今後in vivoでの効果を確認するための基礎データとなる。以上より若干の方向転換を要したものの研究全体としては、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず変異型NBS1を組み込んだウイルスベクターによる遺伝子治療およびPARP阻害薬をそれぞれ単独または併用で用いることによるシスプラチン増感効果のin vivoでの効果を確認したい。まずヌードマウス側腹部にヒト頭頸部扁平上皮癌細胞株(HSC-3,OSC-19,HSC-3-M3)を移植し、頭頸部扁平上皮癌移植モデルを作成する。このモデルを用いてウイルスベクター、コントロールベクターの局所注射による抗腫瘍効果、またPARP阻害薬の内服(強制胃内投与)による抗腫瘍効果およびこれらの併用による相乗効果を検討する予定である。治療効果判定は体表からのノギスによる腫瘍2方向測定による近似腫瘍体積で評価する予定である。さらに治療効果のメカニズムの検討のため、摘出腫瘍の凍結切片を用いてγH2AX染色を行い、腫瘍内での2本鎖DNA切断損傷量の測定、TUNEL法にて腫瘍内アポトーシス細胞数の評価を行う。また肝、腎、肺を摘出し、ホモジェナイズしたサンプルをPCRにかけ、全身へのウイルス播種の検討を行い、全身への副反応が許容できる投与量などを検討する予定である。 またmNBS1導入やPARP阻害薬投与によるDNA修復パスウェイに関わる蛋白群(p63, Mre11, RAD50, ATM, γH2AX, ATM, p-ATMなど)の発現の変化を、腫瘍核内抽出サンプルを用いたWestern blottingにより検討することも予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、変異NBS1遺伝子導入およびPARP阻害薬を用いたヒト頭頸部扁平上皮癌に対するシスプラチン増感効果の検討をヌードマウスを用いたin vivoモデルで行う予定である。、6治療群分けを予定しておりそれぞれ10匹、計60匹のヌードマウス使用を予定している。1匹9千円のため、540千円を予定している。またγH2AX染色、TUNEL法、PCR、Western blottingなどに用いる試薬、キットに650千円、ガラス器具は消耗分のみ50千円を予定した。これらの成果をまとめる年度となるため、国内および国外へ1回ずつそれぞれ30千円、200千円の経費が掛かる見込みである。これは航空券、宿泊料金、学会参加費が含まれる。またこの結果を論文にまとめる予定で、研究成果投稿料として30千円を予定している。
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