研究概要 |
角膜の化学外傷は失明に直結する眼科の救急疾患の一つである。受傷した場合、遷延性の上皮欠損による感染のリスク、血管新生や実質瘢痕による角膜透明性低下が大きな問題となる。さらに有効な治療法がないのが現状である。 そこで本研究では角膜アルカリ外傷モデルを用いて、セマフォリン3a(Sema3a)の治療効果の検討を行った。マ ウスに0.15Nの水酸化ナトリウムを滴下し、鈍的に角膜上皮細胞を剥離したマウス角膜アルカリ外傷モデルを作製した。このマウスに対してSema3aを10, 100, 1000ng/ml結膜下注射を行った。まず上皮の創傷治癒に対する効果を観察したところ、Sema3aを投与しなかった群と比較して、100ng/mlのSema3aを投与した角膜では上皮の創傷治癒が有意に促進された。次に同様のアルカリ外傷モデルにおける 血管新生、リンパ管新生に対する影響を観察した。するとSema3aを100, 1000ng/ml投与した群ではそのほかのSema3a投与群やコントロールと比較して、有意に血管新生、リンパ管新生を抑制した。組織を観察すると、Sema3aを100U投与した群では、F4/80陽性のマクロファージの浸潤が有意に抑制された。最後に角膜に豊富に分布している三叉神経に対しても検討を行った。するとSema3aを投与しても、三叉神経分布密度はコントロールと有意差がなく、三叉神経の再生に悪影響を及ぼすことはなかった。以上からSema3aの投与は角膜のアルカリ外傷時に、炎症や血管新生を抑制し、上皮化を促進することから、組織の正常化を促進させる作用があり、今後治療薬として有効な可能性を示唆した。
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