研究課題/領域番号 |
23592572
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木村 和博 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (60335255)
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研究分担者 |
園田 康平 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10294943)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 角膜潰瘍 / 感染 / コラーゲン分解 / MMP |
研究概要 |
角膜は,良好な視機能を得るためその透明性維持が非常に重要であり,主に角膜実質に依存している.角膜実質は,感染症や外傷などで上皮障害に引き続き障害を受け,しばしば永続的な混濁をきたし視力に著しい障害を起こす.実質障害の中でも感染性角膜潰瘍は最も頻度が多く,悪化すれば失明の危険性もある.角膜潰瘍は,角膜実質を構成するI型コラーゲン(Col)の過剰分解がその本態である.これまで感染巣に集簇している病原微生物が,Col分解酵素を分泌し,実質融解を助長していると考えられていた.しかしながら臨床的に抗菌薬にて病原微生物が死滅している状態でも角膜潰瘍が進行することを認めることから,病原微生物に加え,浸潤してきた炎症細胞及び病巣周辺に存在する角膜実質細胞が実質Col分解に大きく寄与していると考えた.そこでin vivoでの角膜実質を模倣し,I型Col内で角膜実質細胞を培養する三次元培養系を確立した.この実験系に炎症,感染で遊走浸潤した好中球を加え共培養するとコラーゲン分解が亢進した.このCol分解に好中球より分泌されたIL-1βが重要な働きをしており,角膜実質細胞に作用してCol分解に関与する蛋白分解酵素のMMPsの発現亢進を促進していた.続いて,この実験系でCol分解を抑制する薬剤のスクリーニングを行い,副腎皮質ステロイド薬がMMPsの発現を抑制し,このCol分解を抑制することが明らかとなった.しかしながら,感染症の治療という観点から考えると副腎ステロイド薬は生体の免疫機構を抑制し,逆に感染の増悪を促してしまう.それ故,臨床での感染性角膜潰瘍への使用は慎重にならざるをえない.さらに、候補化合物のスクリーニングを行い、新たな化合物を同定した.この化合物は、MMPの発現,活性化を抑制することが明らかとなった.今後さらにin vivoモデルなどを使用し,生物学的な作用を解明していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染性角膜潰瘍治療薬を見出すことを最終目的としており,現時点で新たな候補化合物が見つかってきている.ステロイド骨格を有する化合物並びにレチノイン酸誘導体の二つが,in vitroでの,コラーゲン分解の抑制並びにMMPの活性化,発現の抑制を有意にきたした.このことは,角膜潰瘍の病態が,角膜実質コラーゲンの融解に寄ることから考えると、in vitroの実験結果ではあるが,これらの化合物はin vivoでの角膜潰瘍治療薬となりうる可能性が十分あると考えられる.今後は,in vivoでの角膜潰瘍モデルを作出し,更にこれら化合物の生物活性を検討する必要があるが,現時点では候補化合物が見つかってきたことから最初の大きな目的は達成されたと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
ステロイド骨格を有する化合物並びにレチノイン酸誘導体が、in vitroでの,コラーゲン分解の抑制並びにMMPの活性化,発現を抑制することを明らかにしたが,さらにこれらの化合物の作用を詳細に検討する.詳しくは,IL-1betaによるコラーゲン分解,MMP発現,活性化の分子メカニズムをシグナル伝達経路を中心に明らかにする。さらに,in vivoでの角膜潰瘍モデルを作出し,これら化合物の生物活性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ステロイド骨格を有する化合物並びにレチノイン酸誘導体のIL-1beta依存性コラーゲン分解抑制作用におけるシグナル伝達への関与をwestern blot法にて検討する.さらに,特異的な阻害剤を使用し,IL-1betaによるコラーゲン分解への作用を検討する.MMPの活性化、発現の抑制作用に対しても,同様に関与するシグナル伝達経路を特異的な阻害剤およびwestern blot法にて明らかにする.これらの解析のため,抗体や阻害剤などの試薬購入を予定している.in vivoでのこれら化合物の作用を明らかにするため,グラム陰性桿菌の菌体外毒素であるLPSを用いた角膜潰瘍モデルを作出する.そのため、ウサギ及びマウスの購入を予定している。また、詳細な解析のため、ノックアウトマウスの購入も予定している。
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