臨床上頻度が多い感染性角膜潰瘍は,治癒後もしばしば角膜実質に永続的な混濁をきたし,著しい視力障害をきたすことがある.感染初期では、感染性角膜潰瘍は抗菌剤による治療が効果をきたすことがあるが,進行した角膜潰瘍においては抗菌剤ではすぐには治癒にいたらず,さらなる病状の進行をきたすことがある.これらのことから,角膜潰瘍形成は病原微生物の死滅のみでは十分に阻害できないことを意味する.本研究の目的は,角膜潰瘍の病態解明を行い,より特異的な治療法を模索検討し,新規治療薬を開発することである. 感染性角膜潰瘍の病態を考える上で,病原微生物による直接的な経路,角膜線維芽細胞を介する経路,浸潤してきた好中球を介する経路の関与を明らかにしてきた.中でもresident細胞である角膜線維芽細胞は,サイトカイン,ケモカイン,接着分子およびMMPsなど発現分泌をきたし,角膜潰瘍の本態であるコラーゲン分解の中心的役割を果たす.本研究にて角膜線維芽細胞のI型コラーゲン三次元培養系において,女性ホルモンのエストロゲン,プロゲステロンがコラーゲン分解を有意に抑制することを明らかにした.一方で男性ホルモンのテストステロンには抑制作用は認められなかった.また,エストロゲン,プロゲステロンは、MMP-1,2,3及び9の発現、活性化を抑制した.これら女性ホルモンの作用するシグナル伝達経路を検討し,p38MAPKを介する経路がその標的となっていることを明らかにした.これまでの研究で,性ホルモンについては免疫抑制作用は強くないことが明らかになっている.それ故、感染性角膜潰瘍の治療を考える上で感染病巣での免疫抑制することなく,特異的に実質コラーゲン分解のみを抑制する新しい薬剤のひとつとして有望であると考えている.
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