研究課題/領域番号 |
23592574
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉田 茂生 九州大学, 大学病院, 講師 (50363370)
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研究分担者 |
石橋 達朗 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30150428)
佐々 由季生 福岡大学, 医学部, 助教 (80580315)
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キーワード | ペリオスチン / 増殖糖尿病網膜症 / 増殖硝子体網膜症 |
研究概要 |
我々は増殖組織の成因を明らかにするため、包括的遺伝子発現解析を終了し、ペリオスチンを含む約100の増殖組織特徴的遺伝子の抽出に初めて成功した。このうちペリオスチンを第一の標的として、増殖組織形成への関与を検証した。 ペリオスチンsiRNAを用いてRPE細胞の遊走・増殖・収縮能への効果を検討したところ、遊走と増殖が有意に抑制され、ぺリオスチンは増殖組織形成において主に細胞増殖と遊走に関与すると考えられた。 さらに、病的血管新生とぺリオスチンとの関連を明らかにするため、野生型及びぺリオスチン完全KOマウス双方で酸素負荷網膜血管新生モデルを作成し、網膜面上に伸長する病的血管新生量を比較した。KOマウスでは野生型に比し、病的血管新生は著明に抑制されたが、網膜内に伸長する生理的血管新生に差は認めなかった。一方、高濃度酸素負荷直前に野生型にぺリオスチン中和抗体を硝子体内投与したところ、KOマウスと同様に病的血管新生のみが抑制された。以上より、ぺリオスチンが病的網膜血管新生に関与することが示唆された。 また、増殖組織の活動性を規定する遺伝子群の包括的抽出も行った。増殖硝子体網膜症(PVR)は、PDRに続発し、牽引性網膜剥離により視力低下を生じる難治性の疾患である。PVRと増殖のより緩やかな続発性黄斑上膜(ERM)との遺伝子発現プロファイルの比較を行った。PVRではERMに比べて細胞接着や増殖に関する遺伝子発現頻度が高値を示していた。Bioinformatics解析では、PVRで高発現の10個の細胞接着関連遺伝子と連関しうる60個の新しい分子ネットワークが得られ、この中にもペリオスチンが含まれていた。PVRで特徴的に発現頻度の高い遺伝子群は網膜上増殖の活動性を規定しており、治療標的となる可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペリオスチン標的核酸のIn vitro導入の最適化 In vitro収縮、遊走能や上皮間葉移行に対するペリオスチン標的核酸の効果についてはほぼ順調に終了した。 In vivoモデルでの増殖組織抑制効果と安全性の検討のうちマウス網膜血管新生モデルにおける網膜血管新生抑制効果をKOマウスおよび中和抗体を用いて確認できた。In vitro, In vivoの検討結果より、ペリオスチンは細胞の増殖や遊走に関与することが明らかとなり、網膜上増殖を正に制御することが確認できた。今後、ペリオスチン標的核酸として、nkRNAを用いて増殖抑制効果を検討する。 ウサギ増殖硝子体網膜症モデルにおけるペリオスチン標的核酸による増殖組織抑制効果は未検討であり、次年度に検討する予定である。 増殖組織の活動性(個性)を規定する遺伝子群の包括的抽出は包括的遺伝子発現解析により興味ある遺伝子の抽出を終了し、論文化を終えた。 以上より、当該計画はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初高機能性架橋型人工核酸Bridged Nucleic Acids(BNA)を用いたペリオスチン分子標的薬の創製を予定し、上記の実験をすすめたが、最近、「1本鎖長鎖RNA」と「分子内水素結合による特徴的な2次構造」を特徴とするRNA干渉作用をもつnkRNAが日本で開発され、我々の研究に入手可能となった。nkRNAは標準的なsiRNAと比べ、1.化学的安定性に優れる2.ドラッグデリバリーシステムが不要 3.一本鎖核酸であり、TLR3と結合せず自然免疫系を惹起しない 4.製造が安価・短期間 5. 標準的なsiRNAの既存特許に抵触せず、ライセンス費用が節約できる。などの利点がある。ペリオスチン標的BNAとnkRNAの抑制効果を比較検討したところ、ペリオスチンnkRNAが95%以上のノックダウン効果を示し、抑制効果がより強いことがわかった。そこで、本計画では臨床応用を目指した分子標的治療薬創出をめざして、ペリオスチンnkRNAのin vitro, in vivoでの抑制効果の検証を行うことにした。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.培養細胞を用いたペリオスチンnkRNAの抑制効果の検討 ペリオスチンnkRNAとコントロール配列で処理した培養網膜色素上皮(RPE)細胞をTGFβで刺激後、接着細胞数を両群で比較し、ペリオスチンnkRNAの抑制効果を定量する。同様に遊走抑制効果も細胞遊走アッセイを用いて検討する。上皮間葉移行抑制効果はαSMA発現の変化をRealtime RT-PCR法、ウエスタン法を用いて検討する。また、培養ヒト網膜血管内皮細胞を用いて、VEGF 刺激による増殖、接着、遊走、管腔形成の亢進に対する、ぺリオスチンnkRNAの抑制効果について検討を行う。マトリゲル上に網膜血管内皮細胞を培養し、ペリオスチンnkRNAとコントロールスクランブル配列で処理後、VEGFで刺激し、管腔形成の面積を画像処理、両群で比較し、ペリオスチンnkRNAの管腔形成抑制効果を定量化する。コントロールのスクランブルnkRNAに比べて50%以上の抑制を有効と判断する。同様に遊走抑制効果も細胞遊走アッセイを用いて検討する。 2.In vivo網膜血管新生モデルにおけるペリオスチンnkRNAによる網膜上増殖抑制効果の検討 再現性の高いマウス虚血網膜血管新生モデルを用いる。同モデルにおいて網膜血管新生誘導時にペリオスチンnkRNAを硝子体腔に注射する。濃度は0.1、1、10μgを投与し、至適濃度を決定する。血管新生誘導後5日にフラットマウントを作成して血管新生抑制効果を定量化する。また、FITCラベルしたnkRNAを硝子体内投与し、網膜組織移行性を明らかにする。さらにぺリオスチンnkRNAの毒性を検討するため、血管新生誘導後5日に網膜電気生理学的検査(ERG)を行う。その後眼球摘出し、組織学的にも安全性を評価する。
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